プロローグSSその②【南】(非審査)

※こちらのSSは審査対象ではありません。


※※※※※※プロローグ※※※※※※


 日曜日の朝には三つのルールがある。

 一つ、部屋を片付けないこと。

 二つ、仕事に干渉しないこと。

 最後に、静かであること。


 この三つさえ守れば、なんの不安もない、完璧に幸福な一日を始めることができる。


 ある朝、室生英人は道端で目覚めると、学生服の内ポケットにあったバナナを頬張り始めた。


「おい、あんた死んでるのか。」

「いや、バナナを食べているだけだ。」


 見知らぬおっさんと挨拶をしながら、激しい頭痛に襲われる。

 激しい頭痛?まさか組織の刺客に襲われたのだろうか?

 室生には昨日の記憶がなかった。


「まさか…俺は敵に襲撃されたのか。くそっ!油断していた。」

「よくわかんねえけどよお、兄ちゃんずっと寝てたぜえ。」


 そうか。

 さて、ここはどこだろうか。

 そう思った室生は辺りを見回した。


「俺もビックラこいたぜえ。朝目が覚めたら兄ちゃんがいたんだからよ。ここは俺のシマなんだぜ。」

「そうか。それは済まなかったな。悪いが俺の頭はパジャマパーティの最中なんだ。」


 目の前には汚いホームレス。

 どうやら公園で野宿をしていたようだ。


「で、兄ちゃんはどうしてこんなトコにいんだよ?」

「うむ…そうだな。おそらく敵に襲われた…頭痛がするし、吐き気もする。息が臭い。あと節々が痛い。晩酌の時間を狙われたようだな。」


 昨晩は飲み過ぎた記憶は無いのだが、下校してから宿舎で缶ビールを15本ほど飲んだ。それから生徒会の書類に目を通して、そのまま勢いで深夜徘徊を決行してから記憶がない。


 自治体に近い組織力を持つコブラ学園は、当然ながら公園もホームレスも宿舎も存在する。コンビニもあるし、そこでは酒を売っていた。


「おもしれえなあ、兄ちゃん。それって多分飲み過ぎただけだぜ。」

「そうか?そうであれば僥倖だが…いやアレがない。」


 そこまで思い出し、家の鍵を紛失してしまったことに思い至った。


 たまに飲みすぎると室生は野宿をしてしまう。そして、色んな理由で、そのまま家に帰れなくなってしまうのだ。

 理由は色々だ。鍵をなくしたり、家ごと失くなっていたり。


 しかし、根本的な原因が自分の能力にあるだとは夢にも思わなかった。

 自分の責任を感じてしまうと、完璧な日曜日から遠ざかってしまうからだ。


「あんまり飲み過ぎたらいけねえよ、兄ちゃん。とりあえずどっか行ってくれや。俺は今から寝るんだ。」

「寝るのか…羨ましいな。それこそパーフェクト・サンデーモーニングだ。」


 一方、室生は再び鍵が見つかるまで野宿だ。だが、野宿には慣れている。

 こんなことで彼の心が乱されたりしない。


 そう、完璧な日曜日の朝には煩わしい事など一切存在しないのだ。

 室生英人は学生だが、毎日が日曜日だと思っている。


 完璧な日曜日の朝には仕事に追われることも無い。このまま、今日は学校を休もう。


 室生がそう思った時、草の茂みで助けを求める声が聞こえた。


「助けてくれえええ」

「やれやれ…俺の素晴らしい日曜日を邪魔する奴はどんなベイビーちゃんだい?」


 茂みの中に入ってみると、そこでは校長先生が半裸で空手の修行をしていた。


「ほらほら、儂の空手の稽古をしていたら楽しくて止まらないんだ。ほらほら、儂の空手の稽古を見るんだ。」

「おやめ下さい!校長先生!」


 校長先生は女子生徒に空手の稽古をみせつけていたのだ。

 女子生徒に空手の稽古をみせつけるとはふてえ校長先生だ。室生の中で怒りが湧き上がった。


 室生は校長先生の奇行に困っていた。

 校長に迷惑をかけられるのは、今の変態行為だけではない。


 そもそも室生はコブラ学園に入学し、生徒会事務を担当してから、ずっと校長先生の机の書類整理ばかりさせられていた。

 自分の机くらい、自分で片付ければ良いと室生は思ったが、実際やってみると大変な作業だった。


 何せ、片付ければ片付けるほど、校長の机は散らかっていったのだ。

 書類は散乱し、ゴミは溢れかえり、物は失くなった。

 まるで秘密警察か何かが家探ししたみたいになったのである。


 これはきっと校長が室生の知らない間にぞんざいに机を散らかしているのだと、室生は思わざるを得なかった。

 しかも校長の手際の悪いこと。自分であれだけ散らかしておいて、いざ物を失くしてから慌てふためくのだ。


 これには室生もほとほと困り果てていた。

 国家機関の上司に直訴しようとも思ったが、だいぶ前から上司とは音信不通だし、よく考えれば厄介払いされる形でコブラ学園に潜入させられたのだった。


 あの上司もよく物を散らかしたが、それもよく室生の責任にされた。

 挙げ句の果てに、室生が自分をストーキングしている、とまで言い出す始末だ。


 上司はその後、片付けに追われて仕事が手につかなくなったそうだが、現在は連絡すらとれない。


 室生は自分の運のなさに嘆いた。

 なぜ自分の上司はこんな役立たずばかりなのだろうか。


 室生はいつの間にか、食べていたバナナが途中で紛失していることに気が付いた。

 どうやらまた組織か何かの仕業のようだ。


 それにしても、室生は校長先生の態度には本当に怒り心頭だ。

 件の重要機密書類を紛失したせいで、両学校間の緊張が一気に高まったのだ。しかも結局、それを見つけろという命令を下されたのは室生本人だった。


 いわばこれはどちらの勢力が先に機密書類を見つけるかのレースで、室生は南側の代表選手に選ばれたわけである。

 そんなもの、見つかるわけないと思ったが、国家からの命令である以上、やるしかない。


 だが、あまり考えすぎると完璧な日曜日では無くなってしまう。

 完璧な日曜日では何者にも煩わされることはない。

 室生は一連の出来事を一旦忘れることにした。


 2日後、ホームレスはいなくなっていた。

 あいつも完璧な日曜日の朝を手に入れたんだな。早く校長も手に入れレバ楽になるのに。室生は一人納得した。


※※※※※※注意書き※※※※※※


 ここにキャラクターその②で公開されたキャラクターのプロローグSSが投稿されてます。


 キャラクター及びプロローグSSについては読者審査対象外です。

 審査対象はSSページとなります。

 いいね=投票とします。


 読者の皆さんは是非、「どちらか良いと思った方のSS」にいいねをしてください。


 なお、プロローグSSその②をどちらが執筆したかについては結果発表時点で公開される予定です。

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