第百三十七回 晋漢は兵を退けんことを議す
そのため、戦より三日が過ぎても諸王侯さえ謁見できず、晋軍の中では
「漢賊は変わらず郡境にあって挑発をつづけております。しかし、大王の
「
成都王の言葉を受けて陸機が言う。
「それならばこそ、すみやかに陣頭に出て将兵の心を落ち着かせ、軍中に蔓延する
陸機に励まされた成都王は
「孤はいささか病みついて軍務を執れなかった。今や漢賊は
「今や季節は
▼「高鶏泊」は『
▼「烏獲」は秦の武王に仕えた力士、通常は「烏獲の力」で大力を言う。『
「
成都王は即座に和睦を求める書状を認めると漢の軍勢に人を遣わす。
「時候は炎天の夏になり、疫病がまさに起ころうとしている。両軍は戦を止めて軍勢を返し、夏の酷暑を避けるべきである。これはただ吾が軍の利のみならず、両軍将兵の生命に関わる。この申し出を受けて同じるのであれば、吾が軍は即日に
※
「たしかに炎熱の時候となり、この時期の野営進軍は兵法の禁忌とされている。晋軍からの申し出は渡りに舟、受けるのが吉であろう」
劉聰の言葉を聞いた諸葛宣于が進み出て言う。
「この申し出は二つの理があります。受けるのがよろしいでしょう」
傍らより一部の将帥が異見を出す。
「成都王は吾らを一呑みにしようと侮っていたところにたびたびの敗戦を喫し、愕いて和睦を求めているのです」
「これは吾らを畏れてのことではなく、晋の朝廷に事があったのやも知れませぬ。しばらく和議を容れて懈怠を待ち、その隙に攻めかかれば大勝を得られましょう」
劉聰は笑って言う。
「まだこの和睦の全貌が見えておらぬな。軍師と吾にはまた別の姿が見えておるのだ」
漢より晋への返書は次のようなものであった。
「大王の軍勢が鄴に退かれた後、吾らも軍勢を
使者が晋の軍営に戻ると、成都王に返書を呈して言う。
「劉聰は和睦を受け入れましたものの諸将がそれに反対し、ついに諸葛宣于が劉聰に賛成したことで和睦に決した次第でございます」
返書を一読すると成都王は陸機と苟晞を召して言う。
「劉聰は大略に通じており、和睦を受け入れたという。しかし、賊将どもはこれを
陸機はすぐさま
五路の軍勢が高鶏泊に向かった後、さらに
すべての軍勢が伏所に向かった後、苟晞は
※
漢の諸将は報に接して口々に言う。
「すみやかに軍勢を発して追撃すべきです。大勝すれば、成都王をはじめとする晋の諸王侯は吾らを虎のように畏れることとなりましょう。この機会を捨ててはなりません」
劉聰はそれを抑えて言う。
「そうではない。忠信を欠いて人は心服せぬものだ。すでに和睦を許した以上、追撃すれば信に背く。
諸将は劉聰に追撃を禁じられると
「将が外にあっては君命をも受けぬ時がある。いやしくも国家の利益になるならば、独断専行も許されているのだ。
ついに劉聰の禁を破ってそれぞれ五千、都合二万の軍勢を率いると晋軍の後を追っていく。
傍らの
「必ずや敵の陥穽に陥ろう。すぐさま援軍を発して救い出さねばならぬ」
それを聞いた劉聰は不快げに突き放した。
「吾が命を破って軍勢を発したのだ。救援など無用、打ち捨てよ」
張賓がそれを制して言う。
「そうではありません。四将は軍の総領であり、一人でも欠けば士気は地に堕ちます。それを知ればこそ陸機が軍勢を返して攻め寄せ、危機に瀕する
劉聰は諸将に問う。
「誰ぞ四将の救援に赴く者はあるか」
ちょうど近くにいた
劉聰は四将に軽騎を率いて後を追うよう命じ、四将は風を
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