第百三十八回 漢将は晋の伏に遭いて敗らる
蜀漢の滅亡より四十五年を経た晋の
これ以上の滞陣をつづけて将兵の生命を損なうことは無益であると
その背後では漢の四将、
「追撃に出た四将が伏兵に遭えば、被害は尋常ならざるものとなりましょう。すみやかに
その命により
※
先行する王彌たちはすでに十余里を進んでなお晋軍の後尾を見ず、さらに軍を急がせる。その時、砲声が天に響いて
「王彌に劉霊、すでに和睦がなったにも関わらず、約を踏みにじって奇襲をかけるとは、人の信など微塵もない
張方の悪罵に王彌と劉霊が罵り返す。
「お前たちは吾らを畏れて逃げ出したまで、和睦などであるものか。妄言を叩くな」
すぐさま馬を
晋の四将は漢将の多勢に懼れをなした風を装い、高鶏泊を指して軍勢を退く。
王彌たち四将は馬に鞭して後を追い、そこに
「軍師のご命令だ。晋軍は必ずや重ねて伏兵を置いており、その陥穽に落ちるなとのことだ。逃げる晋兵は打ち捨てて兵を返せ」
四将は制止も聞かず馬を馳せ、駆け去っていく。劉曜が馬上で独語する。
「晋兵が吾らを計るならば伏兵を置くより他にない。懼れるに足りぬ」
やむを得ず関防たちも馬を拍って後につづく。五、六里(2.8~3.3km)も進んだ頃には道の両側は草木が盛んに茂って見通しが利かず、伏兵を埋めるに頃合の場所に追い到った。
劉曜が叫んで言う。
「そこに伏兵がいるぞ。諸将は馬を止めて先に進むな。先鋒は注意されよ」
その言葉が終わらぬうちに砲声が天に響いた。
※
伏兵を予想していた漢兵は素早く退いたものの、すでに背後の草木が燃え上がっている。火勢は凄まじく火焔は天を突くかと
王彌たちは意を決して前に進み、衝き抜けんと図る。
今や晋の伏兵も姿を現した。
そこに張方と祁弘が諸将を率いて前方より攻め寄せ、王彌、劉霊、劉曜、石勒、関防、楊龍、胡延攸、胡延晏、姜飛たちが先頭に立って迎え撃つ。高鶏泊の西からは晋の副将の
▼「龔同」は『通俗』『後傳』ともに「襲用」とするが、誤りと見て改めた。
張實、黄命たちが加勢に駆けつけたものの、
漢将が奮戦して支える間に後詰の大軍が到来せぬかと懸念し、
漢将たちは火が林を舐め尽くす前に火が及ばない谷間に身を避け、攻撃に備える。
※
この時、漢の軍営にある張賓と姜發は幕舎を出て東南の空を睨んでいた。火は天に
それを目にした張賓は嘆息して言う。
「陸機の陥穽に嵌ったか」
姜發は
姜發が叫ぶ。
「入口でさえこれほどの火勢となれば、泊中は推して知るべしだ。晋兵を退け、味方を救い出せ」
自ら先陣を切って晋兵に衝きかかり、
乱戦の中で胡延顥は没骨態を斬り殺し、張實は
遊軍を務める晋将の包廷はこの漢兵を阻もうとして支雄に討ち取られた。
それより漢兵は晋兵の包囲を斬り破って谷間で闘う漢将たちを救い出す。しかし、劉曜、劉霊、張敬、呉豫の姿がない。
姜發はそれを知って言う。
「
それを聞くと、汲桑、楊興寶、胡寧の三将が走り去る。それにつづいて
※
呉豫たちは敵の包囲を外から崩すべく突入を繰り返し、そこに刁膺、支雄、関山たちが駆けつけて斬り込みをかける。それでも、晋兵の包囲は鉄桶のごとく緩まない。
包囲の内では四人の漢将が死戦をつづけ、劉曜は三本の矢を身に受け、張敬は一矢で額を破られても怯むことなく晋兵たちを斬りたてる。
苟晞は麾下の軍勢を指揮して包囲を縮め、四将の命は風前の
そこに外から汲桑、楊興寶、胡寧たちが軍列を乱し、張曀僕たちも馬を馳せて斬り込んでいく。にわかに崩れかかる晋の軍列の中、苟晞は包囲を
矢箭は雨のように降り注ぎ、攻め寄せる漢軍が乱れたつ。楊興寶は身に二十を越える矢を受けた。
※
苟晞の指揮が外に向いた隙を突き、劉曜は包囲の内より軍列に斬り込む。外から攻める漢軍が時とともに数を増し、苟晞は包囲の内の漢将たちを討ち取るべく馬を拍った。
劉霊はひたすら外に向かって攻めつづけており、後を顧みる暇もない。そこに苟晞が一軍を率いて攻めかかり、鎗を振るって劉霊の左腿を一突きする。負傷した劉霊は怒って苟晞に突きかかろうとするも、苟晞は軍勢とともに退き、代わって
劉霊は鎗傷の痛みに闘えず、楊興寶が駆けつけて高潤を引き受ける。高潤の一鎗が楊興寶の肩を突くも
そこに漢将たちが駆けつけ、ともに西口を目指して落ち延びていく。
汲桑が殿軍となって進むところ、刁膺が夏暘により
刁膺は解放されると汲桑とともに夏暘の後に追いすがるも、
※
苟晞は諸将に命を下して言う。
「漢将たちは負傷するか、そうでなければ疲弊しておる。すみやかに追撃すれば擒にできよう。勲功を立てんと欲する者は追い討ちに討て」
苟晞が
「勝勢に乗じて漢の軍営に夜襲をかければ
陸機はその献策を
「功を挙げたとて深追いしてはなりません。勝敗に規則はなく、彼我の優劣は常なりません。この一戦に漢賊を打ち破れば大王の威名はあがりましょう。
成都王はその言を
蕩陰の地は広く柳林が高く茂り、水運の便もあって夏を過ごすに適していた。馬を廻らせて武芸を磨くにも好適であるため、晋の軍勢はこの地に軍営を置くと定めたことであった。
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