十二章 晋漢大戦:闘陣
第百六回 齊王司馬冏は成都王司馬穎を招いて漢寇を計る
「軍勢を発してすみやかに李雄を平定せねばなりません。放置してはこれに倣って叛く者が天下に満ち溢れましょう」
上奏は百官に下されて議論されたものの、先に同じく諸説紛々するだけであった。
「流民の頭目に過ぎない李雄が妄りに尊号を自称しております。理においては討伐して罪を問うべきです。しかし、李雄の支配はすでに固く、
齊王はその言に従って諸王と百官を集め、ともに蜀の平定を議した。
「この期に及んで蜀の平定を論じるのは先後を取り違えた議論というものです。病に
顧榮の駁論を聞いた齊王は百官に問う。
「それでは、その余の者たちはどのように考えるか」
百官は口を揃えて言う。
「李雄は蜀の地を盗んで尊号を僭称しておりますが、その軍勢は数万を過ぎず将帥も数人です。蜀の太守が平定の方策を誤ったがゆえ、僥倖により志を得ただけのことです。聞くところ、胡漢の軍勢は精鋭揃いで戦えば必ず
「天下にあって三尺の童でさえ、晋朝は不幸にも
齊王が言う。
「それでは、この事態にどう対処すべきか。軍勢を発して蜀の李雄を平定しようとすれば、劉淵が
劉殷が言う。
「これは国家の大事、容易く議論が定まりは致しますまい。大王は聖上に上奏して詔を乞い、
齊王は百官の議論に従い、晋帝の
※
孫恂が鄴に入って謁見すると、詔書を読み終わった成都王が問う。
「朝政は齊王が司っているにも関わらず、聖上は何ゆえに
孫恂はさらに齊王からの書状を呈して言う。
「齊王からも書状を預かっております。胡漢の劉淵はすでに
成都王は孫恂の言を聞き終わると、しばらく賓館で休息をとるように命じて慰労の酒宴を仕度させた。
その一方で
「齊王が詔に書状まで添えて孤の入朝を促すとは解しがたいことよ。理由は何であろうか」
「吾が先に小怨を捨てて高志を行われるようにお勧めしたのは、いずれ齊王と大王が
成都王はその言に従い、盧志、
晋帝への朝見の礼を終えると齊王府に移り、迎えた齊王が言う。
「今や蜀は流民の手に陥り、
「
▼「八座」は『
齊王はその言に従い、翌日には成都王と揃って入朝し、宣旨を乞うて大臣を召集し、ともに齊王府に入って胡漢劉淵を平定する大計を議論することとなった。
※
首座にある齊王と成都王が言う。
「諸侯、四方の鎮所は言うに及ばず、
▼「氐貉」は西の
衆議紛々とする中より、江統が進み出て言う。
「外州の諸侯はそれぞれに心が異なります。昔、
それでも衆議は紛々として定まらず、議論が連日つづいても大計は決さない。ついに百官の中より一人の官人が進み出て叫んだ。
「劉淵は
百官が愕いて見れば、それは
▼「経筵諫議官」は晋代の記録にない。「経筵」は君主と臣下が経世済民を論じることを言い、「諫議官」は諫言を進める官の意であるから、
成都王は陸機の言が理路整然としているのを聞き、その胸中に見識を備えていると評価した。陸機を堂上に上げて席を薦め、重ねて言う。
「
「臣は敢えて妄りに国事を論じはいたしません。しかし、御下問に答えさせて頂くのであれば、劉淵の軍勢は三十万をやや越えるほど、それを偽って六十万と号しております。七路の諸侯の軍勢を会すれば、二十万になりましょう。これで胡漢にあたろうとしたところで、敵の三分の一に及ばぬと思い込んで寒心し、賊を畏れて
▼「惣兵都督」は兵権を帯びる最高責任者、元帥にあたる。
▼「遼代雲燕」は、遼は
齊王と成都王はその言に理を認め、盟主を定めて討伐にあたらせようとした。成都王が言う。
「この討伐にあたる盟主は容易な任ではない。威徳ならび立って名誉は衆人に抜きん出た者でなくてはなるまい。諸鎮の将帥や外姓の諸侯をこの任にあてるわけにはいかぬ。必ずや吾が司馬氏より盟主を選ばねばなるまい。諸親王の到着の後に議論して選ぶのがよかろう。しかし、誰を盟主に任じたものであろうか」
齊王が言う。
「この大任は人よりいささか優れているといった程度の者では務まらぬ。文武の才を兼備して衆人が服する者でなくてはならぬ。しかし、名実ともに世に知られた者であれば、異姓の諸侯であっても構うまい」
居合わせた朝臣たちは、齊王と成都王の腹心である孫恂と盧志を推薦されては具合が悪いと考え、口を揃えて上言する。
「元帥の任は兵術陣法を
二王は朝臣が陸機に心服していると思い、晋帝に上奏して陸機を天下の惣兵、
その一方、荊州刺史の劉弘に詔を下し、
▼「令牌」は道教の儀礼に用いられる護符、官吏に授けられる事例は明代まで下る。『
ついに晋朝と漢の決戦が始まろうとしていたことであった。
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