第九十二回 羅尚は兵を会して李特を征す
「田佐、
羅尚は聞くと怒って言う。
「厚遇したにも関わらず、吾が部下を害するとは。歯向かう賊を討たぬ理由はない」
そう言うと軍勢を発して李特を討とうとした。
その時、府門に来客があり、書状を奉じて面会を求めているという。羅尚が入るよう命じると、その人は進み出て
▼夜光珠、延壽珠、祖母珠は宝石、輝石と考えておけばよい。「空青」は、『
羅尚が来意を問えば、胸に掛けた
「明公にお伝えするように命じられたところによれば、
羅尚はそれを聞いて言う。
「李将軍に吾が言葉を伝えよ。辛冉の軍勢を防ぐにも、将兵を殺さなければ、何とでも申し開きができた。しかし、今となっては叛乱とするよりなく、ふたたびお前たちを弁護すれば、吾も叛乱に加担していると
使者は営塁に戻ってその言葉を李特に伝えた。李特は
「羅公は徳人、理においてはその言葉に従うべきであろう。しかし、流民たちは朝廷に従うことを欲しておらん。問うたところで是非にも及ぶまい。流民たちが散じなければ、羅公はすぐさま軍勢を率いてここに攻め寄せる。急ぎ兵たちに命じて険要の地に拠って官兵を防がせるべきであろう。勝敗はこの一戦にあり、生死も定まる。みな力を尽くして官兵を防げ」
諸人はその言葉に従い、それぞれに険要の地を固めて官兵の到来を待った。
※
羅尚はそれより日々軍勢を点検して軍威を張り、出陣の日を睨んでいた。
「李特が罪を懼れて逃げ出すのであれば、逃がしてやって軍勢を進めて追うふりをすればよい。それならば李特との情義を全うし、朝廷には軍功として報告できよう」
そう考えると、間諜を緜竹に遣わして李特の様子を探らせた。間諜が戻って報告する。
「李特は兵を分けて要害を守り、逃げ出す様子はありません」
羅尚はそれを聞くと、近隣の郡縣に加えて蛮夷の酋長にまで檄文を発し、軍勢を会して流民たちを攻め滅ぼすと肚を決めた。蜀の者たちは日ごろから流民の
さらに、檄文は東の
長安に拠る
また、
▼晋代の「南夷校尉」は
羅尚は
※
李特は単騎で姿を現した羅尚を見ると、己も
「願わくば、営塁にお入り下さい」
羅尚は拒み、李特は問う。
「明公がここに来られたということは、吾らに諭される旨がおありと拝察いたします」
「先にはすみやかに故郷に還れば跡は追わぬと伝えた。もはや成都だけでなく、長安、上庸、梓橦、犍爲の軍勢も集まり、総勢二十万となった。しかし、すぐさま攻めるに忍びず諸軍を留めておる。お前は吾が来たのを見て会いに来た。それゆえ、流民たちとともに関を出ることを、重ねて勧める。さすれば、諸将の怒りを免れることができよう。お前たちでは二十万の官兵を防ぎ切れぬ。自ら禍を取らぬよう熟慮せよ」
「公の大恩を蒙ったこと、骨身に刻んで忘れておりません。しかし、吾らの哀訴は先に使者より申し上げたとおり、今や時勢はここまで到り、流民を関から出すこともままなりません」
羅尚はそれを聞くと、馬を返して去っていく。李特は五、六里(2.8~3.3km)もともに
営塁に戻った李特は閻式に言う。
「今日、羅公がここまで来た理由は、空しく情を尽くしたように見せてその実は吾が軍勢の多寡と虚実を計るためであろう。明日は先手を打って兵を出す。隣郡の軍勢が到着しては、勝ち目はまったくなくなるだろう」
閻式が献策する。
「
「長安の軍勢を戦に巻き込むべきではない。吾が軍勢の強弱を測り、その後に戦うか否かを定める。長安からの援軍がまだ来ていなければ、すぐさま軍勢を遣わして
李特はそう言うと、上官晶、
※
李特が軍勢を率いて葭萌関に向かったと知り、羅尚は上庸の張龜と部将の
三人に命じて言う。
「吾が先に李特の営塁を観るかぎり、廣漢の軍勢が敗北したのも道理というものだ。流民と思って慢心し、警戒を怠って山中の隘路に軍勢を進めた。賊は不備を見計らって前後より挟撃したのであろう。ゆえに容易く打ち破られた。その上、賊兵はおおよそ三万ほどもあった。李特が自ら長安の兵にあたって軍を分ければ、営塁に残る兵は二万に過ぎまい。怖れるに足りぬ」
三将は命を受けて軍を発する。流兵の間諜はそれを知ると馬を飛ばして駆け戻り、李特の留守を預かる
閻式は落ち着いて言う。
「諸君、敵が進んできたとて愕き慌てる必要はない。ただ攻めるに任せて兵を動揺させるな。午の刻(十二時)を過ぎれば官兵も疲れはじめる。その時、合図の砲声を挙げる。それを機に攻撃に転じよ。機会を誤らぬように注意せよ」
諸人はその言葉を聞いてそれぞれの持ち場に就く。
官兵たちは羅尚の命により三路より一斉に攻め寄せた。営塁を攻め落とすべく猛烈に攻めるものの、流民たちはただ営塁を守って動じない。
張龜たちが火のように攻め立てても営塁は小揺るぎさえ見せず、午の刻を過ぎた頃には官兵たちは疲労もあって
閻式は
それを合図に李流、
統率が乱れた官兵はたちまち劣勢になり、鎧を捨て兜を失い、箭を受けて目を失い、鎗に刺されて耳を破る。
李流、閻式たちは勝勢に乗じて追撃し、二十余里も追い討って官兵の軍営が見えるまで迫り、兵を返した。
李流と閻式は相談して言う。
「官兵の軍営を見るに、数百里にも連なって兵将も甚だ多い。今日の一戦に勝ったとはいえ、将の一人も殺しておらん。明日攻め寄せてくる時には、軍勢を分けて厳しく整え、容易く打ち破れまい。ここで労を
諸人ともに密かに頷き、人知れず計略を定めたことであった。
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