第二十八回 劉淵は張賓と諸葛宣于を参謀に任ず

 劉淵りゅうえん張賓ちょうひん諸葛宣于しょかつせんうたちを柳林川りゅうりんせんに迎え、連日軍営で練兵をおこなって諸将と同じく弓馬きゅうば鎗棒そうぼうを習練した。午後になると酒を置いて宴会を開き、蜀漢再興の計画を議論する。

 その席上にあって劉淵が言う。

「諸兄はみな往時の勲功の家柄、もとより官職に就いていた。ただ、齊萬年せいばんねんだけは、梁王府りょうおうふ衛士えいしに過ぎぬ。先日、劉子通りゅうしつう劉霊りゅうれい)より使いが来て、齊萬年が一人で三将を斬って秦州しんしゅうを奪ったという。これは功績と呼ぶに相応しい。諸兄と議を定めて名号を加え、次序に加えようと思うが、いかがだろうか」

「功績を論じて官職を進めることは、皇王こうおう通典つうてんであり、理に当然とするところです。ただし、次に向かった涇陽けいようでの戦の決着をまだ見ておりません。その報告を受けた後に賞を加えるのがよろしいでしょう」

 諸葛宣于がそう言ったところ、廖全りょうぜんが意気揚々とその場に現れた。

「お前は齊萬年とともに涇陽に向かったはずだが、どうしてこの場にいるのか。涇陽の勝敗はいかがであったか」

 帳前にいた劉伯根りゅうはくこんが問うと、廖全は馮貞ふうてい姚會ようかいを斬るに至るまで戦の仔細を説明し、捷報しょうほうを告げる齊萬年の書状を呈する。

 劉淵をはじめ、居並ぶ一同は大いに喜んで大盃たいはいを廖全に薦め、その日は酔いを尽くして散会となった。

 翌日、劉淵は帷幕いばくを出て諸将に軍令を発した。


 ※


 劉和りゅうわ楊龍ようりゅう喬晞きょうきの三将は五千の兵を率いて本営を守り、羌兵きょうへいの受け入れをつづける。また、劉伯根、趙藩ちょうはん胡文盛こぶんせいの三将を秦州に遣わして劉霊に代え、城を鎮守して晋の敗卒を収集させた。

 それ以外の者たちは、涇陽に向かうこととし、一同十四人は喬晞を先導として出発する。廖全は本営にあって各地との連絡にあたることとされた。

 日ならずして諸将は涇陽に到り、哨戒の兵が齊萬年に報じる。齊萬年は軍勢とともに出迎え、一同を城に迎え入れる。齊萬年が拝謝すると、諸将はその功績を称揚した。

「吾が無能により、恥ずかしくも敵将を走らせ、ただ空城を得ただけのことです。何の功績がありましょうか。賞の濫用を受けることはできません」

 齊萬年がそう言って褒賞を辞すると、劉淵が言う。

「事業を起こす者は、かならず土地をもといとする。敵将を斬るだけが功績ではあるまい」

「将軍は出戦して戦の度に勝ちを得られました。軍威を宣揚するにこれ以上のものはありません。しかし、この勝ちに驕ることなく、知を以って敵を屈するを上とし、徒に勇を誇ってはなりません。そうすれば、古の廉頗れんぱ李牧りぼくといえども将軍を超えることはありますまい」

 諸葛宣于がそう言うと、齊萬年は謹んで教えを受けた。

「これより吾らが軍謀を預かれば、滅多なことはありますまい。まずは晋軍を防いで日ならずして功業を打ち立てられましょう。ただ、すぐにも晋軍が押し寄せてくるおそれがあり、兵馬を急ぎ整えねばなりません。将帥に軍権を委ね、士卒の隊伍を整え、城の出入りを厳にし、進退は軍令に従うように戒め、何があっても混乱せぬようにします。そうしてはじめて敵を防ぐことができましょう。晋の備えが整わないうちに長安ちょうあんを奪って本拠地とすれば、蜀漢再興の志を遂げるどころか、天下に横行することも容易です」

 張賓がなすべきことを進言すると、劉淵も同意して張賓と諸葛宣于の両名を左右の参謀に任じ、練兵と指揮を司らせる。

 その日は一日中、宴会を開いて齊萬年の戦勝を祝い、翌日には張賓と諸葛宣于が講武場に下りて閲兵えっぺいをおこなった。

 五万余の兵を前後左右中の五部、各一万人の軍勢に分かち、一部をそれぞれ五隊各二千人に分けて二十五隊とする。それより一隊ごとに朝夕に練兵をおこなって諸葛武侯しょかつぶこう諸葛亮しょかつりょう)の陣法を教え込んだ。

 これより、劉淵配下の軍勢の規律は引き締まり、戦闘では詭計を多用したために戦をすれば必ず勝つようになる。

 中興の勢いがようやく形をなし始めたことであった。

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