第二十七回 齊萬年は涇陽にて大いに戦う
それが半日戦うも勝負がつかず、さらに
「賊将の齊萬年は聞きしに違わぬ
諸将は応諾して引き下がると、夜更けに起き出して腹ごしらえを終え、払暁には馬を揃えて羌賊の陣営に迫った。齊萬年もすでに兵を繰り出しており、両軍が平原で相対する。
※
夏侯駿が陣を整えたところ、羌賊の陣頭に齊萬年が姿を現して大音声で呼ばわった。
「将軍は
「時に通じて勢に達するのが明人良士の道、
言い終わるや、大刀を抜きつれて攻めかかる。
齊萬年も馬を馳せて各々の鋭気を尽くし、叫び声が山を震わせる。刀光は凛々として
※
齊萬年は憤怒して大刀を振り上げると馬を寄せ、唐竹割りに両断せんと振り下ろす。
夏侯駿は齊萬年の大刀から身を交わし、かえってその上から斬り下げた。刀は齊萬年の左腿の鎧にあたり、鎧が外れて地に落ちる。齊萬年もその早業に一驚するが、この機を
手負ったように装って馬を
「晋将よ、今日はこれまで、馬を返して陣に戻れ。しばらく兵を収めて明日再び戦おう」
齊萬年がそう言うと、夏侯駿は太腿を打った手ごたえもあり、手傷を負って逃げいくものと思い込み、備えもせずに追いすがる。
齊萬年が顧みれば、夏侯駿は馬に鞭して追い迫ってくる。
狄猛を討ち取った時と同じ謀に嵌めてやろうと、暗に大刀を納めて弓矢を執ると、夏侯駿の胸を狙って一矢を放つ。夏侯駿は弓弦の音を聞くや、馬に伏せて身を隠す。矢はその背をかすめて飛び去っていく。
一の矢を交わされて二の矢を放とうとするも、夏侯駿が背後に迫って矢を放つ暇を与えない。大刀を抜いて馬を返すと戦うこと四十合以上、それでも勝敗がつく気配はない。
※
互いの刀を斬りとどめ、鍔迫り合いになると、夏侯駿が言う。
「さきほど腿を打たれて腕前の差は明白、なお
「お前は弟よりましなようだから、わざと手負いに見せて偽り逃れ、弓矢で片付けようとしただけのこと、お前ごときから傷を受けることなどあろうか」
齊萬年が
「古より明人は闇夜に事をなさぬという。すでに日も落ちた。しばらく兵を収めて明日早朝よりふたたび勝負を決しよう」
そう言うと、夏侯駿は馬を返して陣営に駆け戻る。齊萬年は弓を執って矢を
夏侯駿は矢を引き抜くと、弓に番えて打ち返す。追いすがる齊萬年は弓弦の響きを耳にして、身を伏せて矢をかわす。
「大将たるものが、卑怯な手を使うな」
夏侯駿がそう叫ぶも齊萬年は聞き流し、三の矢を番えて狙いを定め、乗馬を狙って射放った。矢は狙い違わず馬の眼にあたり、
齊萬年は馬に鞭して追い迫り、馬上より大刀一閃で両断せんと狙いをつけた。しかし、晋兵が一斉に
窮地を脱した夏侯駿は、今日はここまでと兵をまとめて陣に引く。取り逃がした齊萬年は大いに怒り、全軍に下知して
※
夏侯駿は矢を受けて馬も傷つき、いったん涇陽に戻って身を休めんと図る。廖全は勝勢に意気上がる軍勢に叫んで言う。
「夏侯駿を追って取り逃がした者があれば、軍法により刑に処する。討ち果たした者は重賞も思いのままだぞ」
それを聞いた晋兵は心胆を奪われ、風を望んで逃げていく。羌兵が後ろから鬨の声を挙げて追ってくる様を見て、夏侯駿は涇陽城に入っても包囲されて進退に窮すると懼れ、馬頭を転じて南の
齊萬年と廖全は涇陽に向かい、夜半になって城下に到る。副将の
そこにいたのは廖全が率いる羌兵であった。
「晋将ども、吾は蜀漢の先鋒、齊萬年である。お前たちの主将の夏侯駿はすでに討ち取った。すみやかに投降しろ」
姚會はそれを聞くや急いで城に入ろうとしたが、廖全が馬を馳せて襲いかかる。
十合も戦わないうちに齊萬年も追い迫り、慌てて鎗法を失したところを廖全に両断されて息絶える。晋兵たちは我先に城内に逃げ込むも、羌兵が怒涛のように押し寄せて城門を閉じられない。
城内の民は怖れて家々の灯を点し、香を焚いて街頭に出迎えた。
齊萬年はここでも殺戮掠奪を許さず、軍令に背いた者を
これより城中に戦はなく、民は大いに喜んだ。民を慰撫すると、齊萬年は廖全に命じて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます