第9話

目を覚ますと、会社の椅子に、体を縛りつけられていた。


目の前にはお酒臭くて、全身真っ赤に染まった中原先輩がいた。


頭がズキズキと痛んだ。



「…速水君は?」


私が恐る恐る尋ねると、


「あんたをレイプしようとしたから警察に自首するって言うの。


馬鹿よね。


ビンタして、水ぶっかけて家に帰した。


『悪い夢を見たのよ』


って言い聞かせて」



速水君がレイプ犯にならなくてよかったと、


私はホッと息を吐いた。


じゃあ、中原先輩のその血はいったい誰の…?


首を傾げると、つーっと額から血が落ちた。


床を見ると血に染まった傘が落ちていた。


私、これで殴られたんだ…。




血に染まった中原先輩が、私の顎を掴んだ。


「違うわよね?


あんたが誘ったのよね?


速水君を。


え、何? 媚薬でも飲ませたの? 


彼とおにぎり食べたのね、


あんたの手と速水君の手からおにぎりの匂いしたわよ!!」



あっ、中原先輩やめて、やめて!!


私の中で「Q」が暴れ出す。



先輩の様子がおかしい。


お酒に酔ってるだけじゃない。

ぐるりと白目を剥いて、口に細かい泡がいっぱいついている。


足元もふらふらしている。


それから、私のボディクリームの匂いがする。




先輩の手に包丁が光っている。


給湯室にあったものだ。


以前、あそこで社長に襲われた時にあれで咄嗟に身を守ったっけ…。




「なんで、私じゃだめなのよぉ~」


中原先輩がじたばたと暴れるようにして、吼えた。


「あんたの男殺しのボディクリームも使ったわよ、


 私、『ずっと好きだった』って告白したのよ


でも速水君は嫌だって、私を突き飛ばして」

 


あー先輩…、私のボディクリームを使ったんだね…。



「なんであんたばっかり…」


中原先輩は大きく包丁を振りかぶった。



包丁が、私の首に刺さって、派手に血が噴いた。


先輩がその血を全身に浴びて、その場にドドゥッと倒れ伏すのを、


私は薄れゆく意識の中で見ていた。

 

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