第10話

その直後に、私と中原先輩を心配した速水君が、戻ってきてくれていなければ、


きっと私は死んでいただろう。


刺される瞬間、私は咄嗟に首をひねって、頸動脈を刺されるのをなんとか避けた。



抗うつ剤とお酒の大量摂取のせいで、中原先輩の手に力があまり入らなかったのも、


幸運だった。



私はボディクリームに大量の抗うつ剤を混ぜ込んでいた。


胃が悪くて経口摂取ができなかったのだ。


ボディクリームに混ぜたのは経皮吸収が目的だった。



うつ病でもない中原先輩が、大量の抗うつ剤を皮膚から吸収して、

そこに大量のお酒を飲めば、意識混濁、妄想、悪心、千鳥足になるのは必然だった。



速水君は警察を呼ぼうと言ったが、私は止めた。


中原先輩はお酒に酔って、意識がなかったの、妄想を見ただけなのと言い張った。


救急搬送された病院で


「手が滑って包丁が首に刺さった」


というのはかなり苦しい言い訳だったけれど、速水君の証言も借りて、押し通した。



三日間、会社を休んで、中原先輩は、普通に会社に戻ってきた。


私はもう少し重くて全治二週間で、仕事に復帰した。

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