第5話
私は身を守るため、全身に性欲を減退させる薬を混ぜたボディクリームを塗って、
毎日、会社に出勤した。
私の体から勝手にあふれ出るQの拡散力の方が強かったが、
それでも私を押し倒し、その首筋や腹に舌を這わせた男たちは、
きつく舌を刺すボディクリームの味に、一瞬、正気に戻ってくれた。
その隙をついて、
本当に申し訳ないと思いながら、
彼らの股間にスタンガンを当てた。
Qに狂わされ、私を襲う人々には、会社の人、近所の人など顔見知りも多く、
私は、彼らを犯罪者にするのは忍びなかった。
Qに狂わされても、二度と私を襲わないよう、スタンガンの痛みで、それを学習してもらうしかなかった。
この体質、このウィルスの「Q」は、「九瀬」(くぜ)という自分の苗字からとった。
何をしても、私につきまとい、私から溢れ、逃れられない「Q」は、
もう一人の私だった。
そして、この「Q」にはもう一つ厄介な作用があった。
それは女性が浴びると、理由のない不快な感情を呼び起こすことだった。
私は女性たちから徹底的に嫌われた。
ごく普通の中小企業の事務員。
特に顔が綺麗なわけでもなく、スタイルも頭もよくない、普通の女にしか見えない私が、宅配便などの出入り業者から取引先の社員、社長まですべての男の胸を騒がせるのは、周りの女性にとって憎しみの対象にしかならなかった。
「男に媚びを売っている」、
「頭の中は男のことでいっぱい」、
「男なんて知らないなんて顔をして、中身は淫乱」、
そんな陰口を絶えず囁かれ、書類を隠されたり、トイレに閉じ込められたり、会社のデスクからたびたび文房具が盗まれた。
会社のグループLINEには、私への誹謗中傷があふれ、
時折、それは私のところにまで届いた。
「死んだら?」
「淫乱クリーム、臭いよ?」
「AVに出てるってほんとですか?」
「処女って何それ、食べれるの?」
会社の中、仕事以外のことで私と話してくれる女性は一人もいなかった。
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