第4話

「Q」は車や電車や密室、狭い空間で男性と二人きりになると、


活性化して鼻腔、唇、瞳、全身の毛穴、私の中から溢れ、


同じ空間にいる正常な男性の脳内に入り込み、性犯罪に駆り立てる、


そんな厄介な何かだった。


病原体なのか、細菌なのか、寄生虫なのか、何かはわからなかった。


まさに、クエスチョンの「Q」だ。


そして私の「Q」は一度に一人にしか、効かなかった。


熱に浮かされたように異常な性欲に憑りつかれる相手の異常さに、


私はそれを便宜上、「感染」と呼んでいたけれど、どんな人が「Q」に狂わされるのかは、わからなかった。


ただ、幸いにも家族には抗体があるのか、同じ家に暮らす父や弟に襲われることはなかった。




「感染」を防ぐ手段は見つからなかった。


単純に強姦だけじゃなく、拉致や私の殺害まで欲求として引き起こされるのも困りものだった。


とにかく人口の約半分が異性である以上、一歩外に出ると、そこは戦場だった。

 


「Q」は私の意志や感情ではまるでコントロールできないくせ、

私を地獄に叩きこむことにかけては、最強だった。


男性に襲われ続けるトラウマのせいで、背の高い男性に近くに寄られるだけで、吐き気と眩暈を起こすようになっていた。


精神科に通い、まともに男性を好きになることも出来なかった。



通学電車、通勤電車はいつも地獄だった。


何度も痴漢に遭遇した。


就職後は、職場で上司と二人きりになると、


上司は、欲望に憑りつかれ、いきなり抱きついて股間を押しつけてきたりした。


化粧もせず、体の線の出ない服を着て、

なるべく無表情に大人しく振舞い、私は社会生活をやりすごそうと努力した。


けれど


「素肌が綺麗だ」


「ミステリアスでいい」


「服の中はどんなことになっているのだろう?」


それさえも周りの男性にとっては感染効果を増幅させる要素になるようだった。

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