第3話

「Q」は、その後も私の人生にたびたび現れた。


高校生の時は、

Nちゃんという友達の家に女の子数人で泊まりにいった翌朝ー


Nちゃんのお兄さんが車で友達みんなを送ってくれるというので、車に乗った。


最後に降ろされるはずの私は、そのままお兄さんに拉致された。


「海に行こう、デートしよう、つきあおう」


と言うお兄さんの全部に、


私は「すみません、ごめんなさい」と答えたけれど、


お兄さんは無視して私を海に連れて行き、


車から降りない私を無理やり抱き上げて、

波打ち際を散歩して


「楽しいなあああ~」


と言った。



ラブホテルが並ぶ海沿いの道を走るのも怖かったし、


泣いて「家に帰して下さい」と頼んでも


ちっとも家まで送ってくれないお兄さんも、怖かった。


暗くなり、やっと家に送ってくれると私は家に飛び込んで鍵を閉めた。





大学生になると、真面目に「つきあってください」と言ってくれる男性も、


ちらほら現れた。


けれど、どの男性にも興味が持てなかった私は、丁寧に心をこめて断り続けた。


ある日、サークルの先輩から話があると呼び出された。


喫茶店で話したいと言われ、嫌な予感を抱えながらも


懇願されて、仕方なく彼の車に乗った。



やっぱり先輩の車は喫茶店には行かず、車は三時間えんえんとドライブし、


「とにかく僕とつきあって下さい。大学を卒業したら結婚しましょう。


僕は誠実な男です」と告白され、


「本当にすみません」


私は、これだけを呪文のように繰り返すしかなかった…。



帰り道、雨の降る高速を走行中、先輩がハンドルを離して、


私に抱きつき、


「もういっそ二人で死のう」


と言った時、その腋臭の中で


「まだ20歳なのに死にたくない!」


と泣いて、先輩の股間を殴って、なんとか運転に戻ってもらった。




塾講師のアルバイトでは、小学六年生の男子生徒に、


合宿中に押し倒されて、唇を奪われた。


11歳のK太は、私の口にタオルを突っ込み、服を脱がそうとするので、

「んーんーんー」と必死で叫んで対抗した。



未成年に何かされたら、成人している私の方が犯罪者になってしまう。


この時、私は自分の「Q」が、年齢を問わずに作用するものなんだと、初めて知った。

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