第2話

次に、「Q」が現れたのは、中学生二年生の時だー


それは体育祭の一週間前だった。

それでクラスの女子10人で、朝、五時半に体育館前に集合してリレー練習という約束をした。


けれどその朝、グラウンドに来たのは私、一人だけだった。

(私は学校から徒歩五分の距離に住んでいた。)



 あーあ、みんな遅刻か、すっぽかしかあ…


一人、体育館の外にあるコンクリートに腰かけて、足をぶらぶらさせていた。


 誰か、一人でもいいから来ないかなあ…


と胸のうちで呟いたところで、新聞配達のおじさんが通りかかった。


「こんな朝早くに、こんなところで何をしているの?」


おじさん、

と思った男の人は三十代くらいの背の高いがっしりした体つきの人だった。

 

私は正直に、


「リレー練習の待ち合わせで、友達がみんな来ないんだ」


と答えた。

 

おじさんは言った。


「ふぅん、でも、こんなところにいたら危ないよ」


危ないって、何が?


と思った瞬間、

私はおじさんに両手をきつく掴まれて、体育館の横にあるトイレに連れ込まれていた。 


「はあはあはあはあ」


と荒い息を立てたおじさんは、あっというまに私の口に手拭いの猿轡をかませ、体を両腕できつくがんじがらめにした。


チャッと音を立ててナイフが取り出され、頬に当てられた。


おじさんの目が、私の膨らみかけた乳房を見つめていた。


(これはつまりそういうことなんだな)


とぼんやり私は思った。


強姦されて、下手すればそれだけじゃ済まなくて殺される。



いやだ! 


私はもがいた。


おじさんの力は強くて腕も足もびくともしなかった。


おじさんが個室に移動しようとして、私を抱えたまま動いた。


その時、足が少し自由になって、私は思いっきり足を空に向かって蹴り上げた。


その勢いで脱げた運動靴は、そばにあった汚物缶に当たり、缶を壁まで飛ばし、


「カーンッ」


と高い音を立てた。


この時、ちょうど近くを通りかかった牛乳配達のおじさんが、


その音を聞きつけて助けに来てくれなければ、私はきっと…。

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