Q?

真生麻稀哉(シンノウマキヤ)

第1話

「Q」


それのことを私はそう呼んでいる。


最初に「Q」が現れたのは、小学生三年生の時ー

 

毎年夏休みは、田舎の祖父母の家で過ごすのが恒例だった。



祖父母の家には、


「お兄ちゃん」


と私が呼ぶ、19歳の叔父もいて、よく一緒に遊んでくれた。


田んぼがあって、畑があって、


街中にある自分の家とは違う、のびのびとした空気に包まれていた。


祖父の家は田舎家らしい広い敷地の中に母屋と離れがあった。


私が妹弟と眠る離れは、もともと納屋だったところを直したため、トイレが外にあった。



ある夜、夜中にトイレに行きたくなって、目を覚ました私は、

靴を履いて玄関を出たところで、誰かに手を掴(つか)まれた。




「俺と、いいところに行こう」


 大人でも子どもでもない男の人の声。


 その目は、確かに私の体に棲(ひそ)む「Q」を見ていた。


 彼はあっという間に私を原付に乗せた。


私はクラブに連れていかれ、その夜一晩中、男女が踊り狂う光と音の海にいた。


夜中にトイレに行ったきり、帰ってこない私を心配した祖父母は、翌朝すぐに警察に通報した。


祖父母の家にパトカーが来たと同じ頃、私は再び原付に乗せられて祖父母の家に帰り着いた。


私を連れ出したのは、叔父の同級生の青年Fだった。


叔父の部屋によく遊びに来ていて、私にもあれこれと話しかけてくれる気のいい

「お兄ちゃん」だった。


あの夜、Fは夜遅くまで、遊び仲間と母屋にある叔父の部屋にいて、

帰ろうと外に出たところで、離れから靴を履いて出てくる私を見つけた。


「あの子を見た瞬間、とにかく、どこかに二人で行きたくなって」


Fはそう思ったのだと言う。


Fは、警察には捕まらなくて済んだ。


未成年で、叔父の友人ということもあり、私の両親や祖父母がとりなしてくれ、事情聴取と厳重注意だけで済んだ。


「とにかく乱暴などされなくて、本当に良かった」みなが口々にそう言った。


 でもあれは、まだほんの始まりだったのだ。


 私はまだ、ほんの子どもで自分が「Q」の保菌者だということを、何も理解していなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る