第4話
―飲みなさいと、差し出される一杯の水。
生き返る!
岐阜の水は美味しい。嫁いでから、台所で、山で、川で飲む水に、目から鱗(うろこ)を落っことすこと、しきりだ。
そういえば、午前中、見惚れ酔ったのも、岐阜の水で鍛えられ、研がれた美しい刀剣だった。
ごくり、ごくり水を飲む。
まるで刀の精になって、冷たい川に沈んでいくみたい。
私の家からは、車を走らせればすぐに橋にゆきあたる。
春は桜と川の取り合わせが何処ででも見られる。
生まれた土地ではこうはゆかない。
そして、毎朝、ウォーキングに行くのも桜並木の中川の堤防だ。
そこで、あ、と私は声を上げた。
心配そうに私を覗き込むその人は、毎朝、堤防で、川を間にすれ違っている人だった。
あちらは走り、こちらは歩き、で。
その瞬間、私の中に溢れたのは
川の水鏡に映る、歩く人、犬と散歩する人、走る人、煌めくような人々の命の営みだった。
明るい安堵が、あくびを誘う。
瞼に涙を宿した私を、その人が目を丸くして見つめる。
「おやすみなさい・・・」
ああ、どうやら私はまだ、今も岐阜の水に酔っている・・・
水の人 真生麻稀哉(シンノウマキヤ) @shinnknow5
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