第2話

そのあとは一体どう山をくだったのかも、まるで記憶がない。


帰りは、例の誰だかわからぬ年嵩(としかさ)の男の人が車で送ってくれたが、


途中で私が悪寒に震え、彼は自宅で私を休ませてくれた。


 蒲団を用意され、朦朧(もうろう)として倒れ込む。


差し出される体温計は水銀とガラス製。


すぐに液体状の水銀が、ガラスの中を駆け上がる。


「見せてごらん」


と、私の脇から体温計を抜き取る指は、赤チンに染まっている。



 懐かしい、銀の水と赤の水。


暴力的な睡魔に引きずり込まれて、私は真っ暗な闇。


かすかに洗い物の水音が夢の中、さわさわと忍び込む。


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