第3話

滝人が順調に回復して、明日、退院するというその日、


「トゥルルルル」と


実家が電話が鳴った。



母親が電話に出る。



「はい、須賀田(すがた)です。えっ、警察!」



母の小さな肩が、緊張できゅっとちぢこまり、


俺は、電話を替わろうかと、腰を浮かした。



次の瞬間、母が泣いてるような笑っているような、


くしゃくしゃの顔をして、振り返った。


「隼人ぉ、」


「いったい、どしたんや?」


俺がそう言うのに、嬉しそうな母の声がかぶさった。


「お兄ちゃんな、眞人(まにと)が、かえってくるって」




俺の6つ上の兄、眞人は、10年前、32歳で死んでいる。



母と電話を替わり、俺は警察からの電話に出た。


「…それでですね、その男が事故で死んだもので…」


電話の向こうの警察官の話を聞いている間、


俺は


「よう来たな、ハヤ坊(ぼう)」と、


いつものように兄貴に呼ばれたような気がした。



兄貴が俺を滋賀に呼んだのは、滝人のことと、もう一つ、


これが理由だったのかー。





警察からの電話を切った俺は、単車のメットを手にした。


「母さん、


俺、ちょっと兄ちゃんの墓に行ってくるわ」


「気をつけるのよ」


母の声が背中に飛んだ。

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