第14話 大手通信会社社員、新しいモンスターに出会う

アムの魔法で足音がしなくなった僕たちは西のダンジョンを突き進む。

 ダンジョンだということを忘れてしまうぐらい何事も無い。

 たまにアムが何か飛ばしてるけど、モンスターの注意を別に逸らしているみたい。


 アム……本当に優秀だなあ。冒険者になれば引っ張りだこ間違いなしだ。

 僕の店なんかにいちゃもったいない気がする。なんか少し罪悪感。


 しかし……瘴気が強くなってきたな。体が少しずつ気怠くなっていく。


**


「そろそろ休憩しよか」


「はあ、はあ、はい~」


 歩き始めて2時間ぐらいだろうか。ありがたい提案だった。

 安全そうな場所を探し、簡易キャンプを張ることにする。


「ちょい待ってな」


 アイシャさんが簡易キャンプ周辺にに魔法を使う。

 ダンジョンは全体的に黒い靄がかかったようなんだけど、アイシャさんが魔法を使った区画は清々しさを感じる。


「あれは?」


「ん? ああ、回復魔法で周囲を浄化している」


「へえ~」


「そんなことできるんだ~すっご~い」


 アイシャは周囲を浄化できるフレンズなんだね! すっご……ふう、早く休みたい。



 浄化してもらった場所は気持ち良かった。空気が美味い。

 ダンクさんが見張りをやってくれることになったので安心して休める。


「どっこいしょ~。いや~生き返るなあ」


「デン、おやじくさ~い」


 そんなこと言われても妙に疲れるんだよな。

 体の一部が妙に重く感じる。どこかと聞かれると……どこなんだろう?


「確かにデン君、妙に瘴気溜めこんどるな~。回復魔法かけたるわ!」


「あ、ありがとうございます」


 回復魔法って気持ちいいな~。ぬるい温泉につかってるみたい。

 でも瘴気溜めこんでるって言われたけど、対策出来るものなのかな?


「瘴気って対策出来るんですか??」


「知らんな~。アムちゃん知っとる??」


「アタシ瘴気関係ないし~」


「そもそも瘴気溜めこんでまう人って初めて見たわ。なんでやろね?」


 瘴気溜め体質。全く嬉しくない体質みたいだ。

 僕はとことん冒険者に向いてないみたいです。


 ちなみに普通の人は瘴気レベル5以上じゃないと影響が無いらしい。

 頭痛や倦怠感から始まり、酷くなると嘔吐や呼吸困難になるみたい。


「そろそろ行こか、ここは瘴気Lv3やね。戻る時間も考えて……もうちょい進もか」


「りょー!」


「おう」


「ねえねえ、強い敵でないの~?」


 僕的にはもう十分強い敵なんだけどな。アムには物足りないみたいだ。


「せやね~……、この先もリザードマンがぎょーさん出るで」


「ぶ~、トカゲ飽きたー」


「瘴気Lv5まで行けば、アシッドボアとかフォレストオークとか出るねんけど……、デンちゃんおるしなあ~」


「あ……そか」


 お荷物ですいません。ちょっとしょんぼり。


「アイシャ、ぬ……」「あああ! せやね! 沼側行こか! あそこなら瘴気レベルこことあんま変わらんと思うし」


「沼~? 強いの出るの??」


「ふっふっふ~、そいつは行ってからのお楽しみやで!」


 僕たちは一路、沼に向かうことになった。


**


 沼。正確には沼手前の湿地帯といったところだろうか。

 場所によっては嵌ると抜け出せ無さそうな場所もあるし、ぬかるんでいて非常に歩きづらい。


「そろそろやな。アムちゃん、人型の魔物おる?」


「ちょっとまってー」


 アムは目を閉じて、指を鳴らした。


「いた! いたけどぉ~、あれ人??」


「よっしゃ! ほな行こか!」


「あっちだよ~」


 アムが駆けだした。それについていく僕たち。


 ぬかるみを進み、泥に足を取られそうになりながら目的の場所に辿り着く。

 沼地の樹木はかなり異様だ。どうにか地面から養分をもぎ取ろうと1本の木が無数に根が張り、幹は湾曲してたり他の木と争うように絡みついている。


 木の裏からひょっこり化け物が出てきそうな場所に人型の生物が……いた。


「なにあれー!!?」


「あれが、ハードスライムやで!」


 スライムと言えば、ザコモンスターの代表格であり、小さく軟弱なイメージ。

 だけど視界に入ったスライムは小さい人のような背格好をしている。

 通常のスライム同様に非常に透き通った体をしている。


 スライムの体から採取できるスライムジェルは、不純物が混じっておらず清潔で回復魔法と親和性が高いらしい。

 なので、医療系を中心に重宝されるんだってさ。


「強いのー!? あいつ!」


「ん~~、まあまあや。せやけどアムちゃんにはぴったりやと思うねん」


「ぴったり?」


「正直な話、ウチとダンクやと相性悪いねん。スライムには魔法って相場が決まってるやん。

 でもウチは回復魔法専門やし、ダンクはどつくことしかできんから」


 力押しには滅法強い2人。だけど魔法攻撃は出来ないもんね。


「アムも攻撃魔法出来ないよ?」


「そこがええねん。ふっつ~の魔法使いやったら、スライム系は結構簡単に倒せるんよ。

 せやけど、焼き焦がしたりズッタズタにしてドロップ品の質がめちゃ下がるんよ」


 確かに、北のダンジョンでドロップしたスライムジェルは超高品質だった。

 コアだけをピンポイントに破壊できるアムならではだ。


「多分、音魔法いうぐらいやから音とか振動で攻撃しとるんやろ。

 ハードスライムのコアさえ壊せばええねん。音魔法は相性ええと思うよ」


「わかった! やってみる!」


 アムは初めてのモンスターと出会ってウキウキしてるみたい。

 ハードスライム狩りが開始された。



**


 作戦はこうだ。ダンクさんがハードスライムに組み付いて動きを止める。

 そしてアムが攻撃して、アイシャさんが回復。僕は回収役。


「ほなまずはダンクいこか!」


「おう!」


 ダンクさんが身近にいたハードスライムに接近する。

 気付いたハードスライムは威嚇行動をとる。


「ぬうう!」


 ダンクさんはハードスライムに掴みかかった。

 遠くから見ると、大男と小男が組み合っているように見える。

 一見ダンクさんが優位に見えるが――


「あのスライム、軟体やから力が入りづらいねん。ダンク位パワー無いと動き止めれへんで」


「そ、そうなんだ」


「ふ~~ん」


 アムはハードスライムをじっと見ている。


「アイシャ~、あの胸っぽいところにあるのがコアよね?」


「せやで、どうや? 壊せそう??」


「んん~~、周りが固そう~。 『強振動ハードロック』なら貫通出来るけど、コア以外も吹き飛ばしちゃうし~』


 『強振動ハードロック』といえば、北のダンジョンで、アームドオークの頭蓋骨を一撃で吹き飛ばした魔法だ。

 その余波で僕は穴に落ちちゃった、良い思い出ではない魔法だね。

 確かに、あの魔法は衝撃波が凄かった。コアどころかスライムの全身が木っ端みじんになりそうだね。


「ちょっとやってみる~」


 ふらふらハードスライムに近づくアム。


「ぬううう!」


 組み合っているダンクさんを横目に、ハードスライムを観察するアム。

 僕とアイシャさんは心配そうに見つめることにした。



**第三者視点**


(ハードスライムっていうだけあって固そ~)


 アムはハードスライムを観察する。散歩するように近づきながら。


「ん~、普通の『音玉』だとコアにダメージ与えれないかも~。でも~『音叉爆弾』だと破裂させちゃうし~」


 アムは組み合いながら動きを抑えているダンクとハードスライムを周回しながら、出来る限り近寄ってじっくり観察を続ける。

 落ちてた木の棒を拾い、ハードスライムの背中から刺してみる。


「すっごーい、かったーい! キャハハ」


「お、おい! 倒せそうか?」


「ちょっち待って~」


「お、おう」


 アムは左手に魔力を籠める。


(むむむ~、コアだけにダメージを与えるには……。

 こ~ピューってなってズドーンかな。ん~ピューっとなってシュン! かな。

 あ、アレならいけそう! ダンクなら耐えれそうだし!)


 プランが決まったアムは楽しそうに魔力を弄り始める。


(『音玉』作って~。ちょちょいと細工して~)


「よ~しこんなもんでしょ~」


「おい! 早くしてくれ!」


 アムは笑う。ダンクは悪寒を感じた。


「えへへ、ダンクゥ~」


「な、なんだ!?」


「痛かったらゴメンネ☆ てへ」


「お、おい……」


 ウインクで星形の魔力を飛ばした。

 そして、アムは左手を天に掲げた。


(ん~、名前考えてなかったな~。まいっかー!)


「ていー!」



**デン視点**


 ん? 『音玉』かな?


 アムは何か考えたみたいだ。

 ダンクさんに話しかけて、魔法を発動させる。


「ッ!!?」


「アイタ!! な、なんや!?」


 アムからの距離は10メートル近くある。だけど衝撃波というか耳がキーンとした。


 僕たちはダンクさん達に視線を戻した。


「ど、どうなんでしょ?」


「ちょいまち」


 ダンクさんと組み合っていたハードスライム。

 自然と二人? は離れハードスライムは崩れ落ちた。

 無事にコアだけを破壊したみたいだ。


「おお! 上手い事できたみたいやん!!」


「すげ!」


 遠くから見る限り、ハードスライムに外傷はなさそうだ。

 これは非常に状態の良いハードスライムジェルをゲットできそうだ。

 だけど……なんかおかしいな。


「あれ?」


「なんや??」


「なんかダンクさん傾いてません??」


「ん?」


 身長2メートル近くあるダンクさんが、ゆっくり後ろに傾いていく。


 そして――倒れた。

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