第13話 大手通信会社社員、西のダンジョンに行く
―西のダンジョン―
ソロモンシティ西部に位置する中級冒険者向きダンジョン。
深い森になっており、一般開放は瘴気Lv5まで。
最深部は深い瘴気に守られており、対策無しには侵入も難しい。
**
朝早く北のギルドに向かう。
念入りに装備を整えた僕と、お菓子だけ持ったアム。
同じ場所に行くのに持ち物が、登山する人とピクニックするぐらい差があるのはどうしてだろう。
北のギルドではダンクさんとアイシャさんが待っていた。
「おっはよ~」
「お、到着やね、おはよ~さん」
「おはよう」
一拍遅れて挨拶する。
「おはようございます」
「凄い荷物やね~、登山でも行くん?」
「は、はは」
今日は4人で西のダンジョンに行くことになった。
アムが北のダンジョンはつまらないと言うから、西のダンジョンに。
僕にとって西のダンジョンに行くことはは自殺行為だ。
反対したんだけど、2人を連れていけば大丈夫だってさ。
「まあ、デン君おるし今日は軽くいこか。かる~~くな」
「は~い」
「お、お願いします!」
早速出発しようと思ったその時、一人の男がギルドに入ってきた。
一言で言うなら金髪美形男子。なんていうか少女漫画に出てきそうな主人公顔。
ランニングでもしてきたのだろうか。汗ばんでいる。
「ふう」
「お、ツィライやん」
ツィライと呼ばれる男は、僕たちを見た。
「アイシャ……。お出かけか?」
「せや、今から西のダンジョン行ってくるわ」
ツィライさんは嘲るように微笑んだ。
「――ふん」
「なんやなんや? 感じ悪いで~」
ツィライさんは僕たちを見て、いや主に僕を見て言い放つ。
「この面子でダンジョンに行くのかい? あまり深いところに行かないようにしたまえ。
でないと救出作業に行かねばならなくなる」
まあ、僕もその通りだと思います。だけどアムは怒ったみたいだ。
「ぶー! 何よあんた! ちょー失礼!」
「君が誰だか知らないがその装備だ。冒険素人なのは確かだろう。そこそこ強いのかもしれないがね。
それに、そこの彼はどうみても冒険者向きには見えないね」
まったくおっしゃる通りです。僕も本当にそう思ってます。
「魔力も感じない。まあ……【収納】や【探知】のようなスキルもあるから一概には言えないが」
そういや【探知】スキルは持ってる人多いみたい。
といってもレベルが3以下だとあれば便利ぐらいの範囲らしいけど。
国王軍にはレベル5の人が複数人いるらしい。
「デンは【収納】スキル持ってるもん!」
いや……張り合われたら困るんだが。
「ほう……、ちなみにレベルは?」
「え~っと、2ですね」
ツィライさんは哀れみ、首を振った。
「そうか。まあ頑張ってくれ。私は訓練があるのでこれで」
ツィライさんはクールに去る。それを見て激昂するアム。
「なーによ! アイツ! 死ねばいいのに!」
「なはは、悪いな~。ツィライは絡むからな~」
「が……が」「そうそう、『絡がらみ』のツィライていうぐらいやからな」
ダンクさんは言えずじまいに終わった。いつもの通りだ。
「ガラミってなんですか?」
「まあ、歩きながら話そか。1時間ぐらいかかるし」
とりあえず僕たちは西のダンジョンに向かった。
**
「ツィライは【絡からむ】って書いてガラミって呼ばれてるねん」
「確かに粘着質そー! きらーい!」
「まあ、性格はちょっとめんどくさいんやけど、戦士としては優秀なんやで。
双剣使いで雷エンチャント出来て、そんでもって高い俊敏性」
ますます主人公っぽい能力だなあ。双剣とか憧れるよね。
「戦いになったら、雷エンチャントは麻痺効果あるからね。
近接戦はめっぽう強いねん。相手は痺れる、距離を取りたくてもすぐ追いつかれる。
一度絡み付いたら倒すまで離れない。雷剣『絡ガラミ』のツィライ」
二つ名いいな~。僕もなにかつけたい。
そうだな~、なんちゃってドロッパーのデン。……寂しくなるからやめよう。
**
西のダンジョン、というか森に辿り着いた。
北のダンジョンみたいに明確な入り口は無い。深い森だ。
ダンジョンって言うと洞窟をイメージしてたけど、色々あるんですね。
ただ瘴気のせいか、空が見えない。木々の葉と瘴気が交じり合い屋根のようになっている。
「瘴気計がLv5越えたら引き返さなあかんねん。まあ、そこまで辿り着けへんと思うけど」
アイシャさんは、懐中時計タイプの瘴気計を取り出した。今はレベル1だ。
しかし……先生! 1名辿り着く気満々な人がいます。
アムは楽しそうだ。
「ほないこか。隊列やけど……アムちゃんホンマにええの??」
「アタシ先頭!」
普通、先頭は耐久能力の高いRPG風に言うとタンクと呼ばれる人たちが務める。
僕らで言うと完全にダンクさんだ。
でもアムは先頭を希望した。
「てっき、倒す~♪」
「ま、まあええわ。危ななったらダンクと交代やで」
「は~い」
アムはやる気満々。まあアム強いし。
「ほな、ウチが2番目、次がデンちゃんで、最後ダンクでいこか。
「はい!」
「おう」
僕を守る形のフォーメーションが組まれた。
やばい……お化け屋敷の比じゃないぐらい怖いぞ!
**
アムはダンジョンを突き進む。鬱蒼とした森なんだけど凄く楽しそうだ。
出てくるスライムやゴブリンを『音玉』で皆殺しにしていく。
「ぴょぴょぴょい~。アハハ~ウケル~」
僕たちが認識する前に打ち殺しちゃうから、道はモンスターの死骸まみれになった。
僕はせっせと魔石を拾う。スライムゼリーは無視することにした。
「あれ……なんやの?」
「あれはですね――」
アムの『音玉』について教えてあげた。
「ふ~ん、音魔法ねえ~。聞いたことないけど便利なんやね~」
「色々出来るみたいです。だけど攻撃魔法ではないみたいなので……」
とは言ったものの、どんどんモンスターを屠っていくアム。
「十分攻撃力高いで……あれ」
「そ、そうですね」
西のダンジョンは、お決まりのスライムゴブリンの後はリザードマンが大量に現れる。
「リザードマンは色によって強さが変わるねん」
「そうなんですか?」
「明るい色であるほど強いで。白とかピンク、特に発光してるやつは滅茶強いねん」
今のところ発光した個体はいない。だけど白っぽいリザードマンが現れた。
手には錆びた大剣を持っている。こ、こええ……。
「アムちゃん! 手伝おか!」
「ん~、だいじょぶ~」
アムは魔力の玉をシャカシャカ振り出した。あれだ『音叉爆弾』だ。
「こんなもんか~、なっと!」
投げつけられた『音叉爆弾』はリザードマンの眼前で爆発した。
『どぉーん!』と大きなアムの声が木霊した。
「う、うっさい魔法やな」
「そ、そですね」
「……まだだ」
爆発の中から顔面を一部損傷したリザードマンが現れた。
滅茶怒ってますよ~。
「も~、リザードマンってめんどくさーい、ウフフ~」
リザードマンは耳が退化してて、音魔法が効きにくいとか言ってたなあ。
大丈夫かな?
アムは再度『音叉爆弾』を作り出す。そしてリザードマンに近づいていく。
足取りは軽い。跳ねるように3歩でリザードマンの近くまで。
普段アムは足が速いわけじゃない。だけど戦闘中は妙に軽やかだ。
「ギシャアーー!!」
リザードマンは飛び跳ね、アムに突撃してくる。
アムは降り下ろした大剣をすり抜けるように回避する。
リザードマンは勢い余って体勢を少し崩す、だがすぐに振り返り斬りかかろうとするした。
「強くフォルテ」
アムは小さく唱えると、右手の『音叉爆弾』の輝きが増す。
そして『音叉爆弾』はリザードマンの眼前へ。ただ今回は大剣でガードされた。
『ちゅどーーん!』
『音叉爆弾』が爆発した。盛大に。過激に。その分音量もアップしている。
それでもリザードマンは立っている。
「……あ」
リザードマンは立っているけど、頭が無かった。
「す、すごいであれ。せやけど目立ちすぎるわ……」
「そ、そうですね」
威力は申し分ないけど、その分音が大きくなる攻撃。
周囲のモンスター達は異変に気付いているのはずだ。
なんか……森の威圧感が増した気がする……。
「あ、アム! あんまりやり過ぎるとモンスター集まっちゃうぞ」
「ん~? もう集まってるかも~。キャハ」
キャハじゃない……。
「でもリザードマン飽きちゃったかも。先に進も~」
「さ、先に進もうったてさ……」
「だいじょぶだいじょぶ!」
アムの綺麗な足が光りだした。
「『足音ステップビート』」
詠唱と同時に周囲に足音が鳴り響く。リズム良い足音は行進を連想させた。
「歩く速さでアンダンテ」
足音が明後日の方向へ進んでいく。
これなら、僕たちが明後日の方向に進んでると思うだろう。
「おお~、すげ~」
「便利な魔法やな~」
「えへへ~、それじゃ~こっちも」
そういってアムは右手人差し指を指揮棒のように振るい魔法を使う。
「『静かな足音トレイス・ディ・カルマート』
僕たちの足が紫色に光る。
「それで足音がしないよ~」
試しに足踏みしても音がしない。面白くもあり奇妙な感覚。
「便利やで~これ」
「うーむ」
「はは、すごいな~」
「それじゃ~、最下層までレッツゴー♪」
最下層までは行けないけどね。そこからはモンスターにも気づかれずガンガン進むことになった。
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