第10話 大手通信会社社員、知らぬ間に商品が売り込まれる
『メッセージボックス』は一旦完成したもののどう売ればいいかまでは考えて無かった。
ICレコーダー的な製品を作れることに舞い上がってて、どうやって実用するかまで頭が回ってなかった。
まあ……『メッセージボックス』に関しては追々考えていこう。
まずはお店の準備をしないと!
ちなみにアムは店の手伝いをしてくれることになった。特に店内の陳列は非常に助かっている。
僕はなかなか男らしい陳列……まあ雑な陳列だったんだけど、アムはなかなか綺麗に陳列してくれる。
なんか部屋の陳列状況ぐらいなら見なくても手に取るようにわかるみたい。
狭い範囲なら音波探知みたいなことを素の状態で可能らしい。悪魔って便利なんだね。
それに、やっぱり可愛いからね。店が華やかになった。
男客も増えたけど、嫁だと思われてるのか口説かれたりはしないみたい。
あと、ちょっと意外だけど高齢者にも人気がある。アムは気軽に誰とでも話すから。
可愛い娘のような感じなのかな。
結論。かなり助かっているってわけだ。
**
お昼前、ランチの準備を進める。
午前中はお客さんも少ないので、アムの仕事はひと段落する。
アムは店内の椅子に座って『メッセージボックス』で遊んでいる。
アムにとっては大した機能では無いけど、お気に入りみたいだ。
とはいっても、アムが『メッセージボックス』を使うと、いきなり高性能になる。
1回こっきりの回数制限も無いし、『絶縁魔紙』も不要だ。
音量の調節、キーの上げ下げ、ラップ調に変換などなど、アムが思いつくことならなんでも可能なんだろう。流石音の悪魔ですよ。
「あ、タムちゃんだ~」
アムは店のドアに駆け寄り開ける。
「タムちゃんいらっしゃ~い」
「ほっほ、アムちゃんはいつも元気なのね~」
当店お得意様、タルムンおじいさんのご来店だ。アムはタムちゃんと呼んでいる。
タム&アムちゃん。アムの懐への飛び込み具合が凄いよ。僕は間違ってもタムちゃんなんて呼べない。
アムはタルムンおじいさんを椅子に案内する。
「たまごバーガーでいい~?」
「そうだねえ、お願いするのね」
「は~い」
アムはお金を受け取り、僕にオーダーを伝える。
「たまごバーガー2つね~」
「は~い、卵焼きバーガー2つ」
アムはタルムンおじいさんの分と、自分の分をオーダーする。
お客さんと一緒に食べちゃうなんて無茶苦茶だ。でもタルムンおじいさんが喜んでるんだから止める理由は無いよね。
「もうちょっと待ってね~」
「ほっほ、楽しみなのね~」
余談だけど、タルムンおじいさん用の卵焼きバーガーは薄味にしている。
「もうちょい薄味のほうが好きっぽいよ~」とヒアリングしてくれた。アムって本当に優秀だよ。
さてさて美味しい卵焼きバーガー作ろう。
**タム&アムちゃん(第三者視点)**
「タムちゃ~ん、見て見て~」
「ん? どうしたのね?」
アムは『メッセージボックス』をタルムンに見せた。
「ほほ? なんなんのねこれ?」
「へへへ~、『メッセージボックス』っていうんだよ」
「メッセージボックス? 初めて聞いたのね」
「デンとアムで開発したんだよ~、共同作業なんだよ~」
「すごいのねえ~」
アムは無邪気に笑った。誰かに話したかったのだろう。
一方タルムンも、孫娘のようなアムが喜んでいることを喜んだ。
「ねえねえ、ここに何か喋ってみてよ」
「ほ?」
「なんでもいいからお喋りしてみて~」
タルムンは、魔方陣の描かれている箱を見つめる。
少し不安は過よぎったもの、アムからのお願いなので、問題ないだろうと判断し喋ることにした。
「こんにちは、タルムンです」
魔方陣は輝きを失った。声が魔力に変換され魔石に移動した証拠である。
「ほほ?」
「へへ~、この紙を抜いてみて~」
タルムンは指示された『絶縁魔紙』を引き抜いた。
『こんにちは、タルムンです』
意図通りに『メッセージボックス』からタルムンの声が流れてくる。
音質はかなり向上している。
「む~ これは……」
「タムちゃんの声だよ~、スゴイスゴイ~?」
アムは嬉しそうだ。タルムンおじいさんは「すごいのね」と応えたが、初めての体験に驚いていた。
自身の声を自身の口を通さず聞く経験は、この世界ではかなりレアな経験だからだ。
あるとすれば、山彦ぐらいだろうか。
「これは……声を封じ込めているのね?」
「ん~そんなとこかも~」
「これは何度でも使えるの?」
「ん~ん~1回だよ~。アタシのとこにもってくればまた使えるよ~」
アムは『絶縁魔紙』をセットしなおして、『メッセージボックス』に魔力を注ぎ込んだ。
「はい、出来たー!」
「ふ~~む」
タルムンは、デンの店で初めて商人の顔になった。
**デン視点**
「お待たせしました~、卵焼きバーガーです」
「やたー!」
卵焼きバーガーを頬張るアムは幸せそうだ。
「はい、タルムンおじいさんも……どう、ぞ??」
タルムンおじいさんはいつもの柔和な顔ではなく、鋭い目で『メッセージボックス』を見つめている。
僕の存在に気付いたみたいだ。
「あ、ごめんなのね」
「いえいえ、どうかしましたか?」
何か考えるタルムンおじいさん。
「デンちゃん。この『メッセージボックス』はいくらなのね?」
突然の展開についていけない僕が、そこにいた。
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