第9話 大手通信会社社員、商品開発に乗り出す

ダンクさんの告白が上手くいった次の日、ダンクさんとアイシャさんは一緒に店まで来た。

 感謝を言いに来てくれたんだけど、9割アイシャさんが喋りまくった。


「なにあれ~。恥っずかしいわ~! ダンクもダンクで隠し事下手なんやもん!

 隠れて何しとんねんってムカムカしてもうたわ! ダンクのアホ!」


「む、すまん」


「ま、まあ、許したるわ」


 仲が良くて何よりです。

 ちなみにお礼を準備してくれた。


「こ、今度引っ越すことにしてだな……」


「せやねん! ウチら付き合いたてやねんけど、付き合いは長いやん?

 せやから一緒に住もうかって話になってん。2人やったらちょっと大きい家にも住めるし!

 ほんでな近々引っ越すんやけど、家具一式お願いしてもええかな?

 せっかくやし新調する予定やから、一式見積もってくれへん? 可愛いので頼むわ!」


 てことで臨時収入が入ることになった。常に自転車操業の当店にはとてもありがたい提案だ。

 更にダンジョンでアムに倒してもらったモンスター達からの戦利品もいい値段が付いた。

 今月は久しぶりに余裕がある。

 お金に余裕があると、心に余裕が出てくるよね。



 今日は店を休みにして、アムに魔法を教えてもらうことにした。

 去年までは休みを削って働いていたので、丸一日休めるのは本当に嬉しい。


**


「へ~、魔法陣って面白いんだな」


「そ~お?」


 僕はアムから魔法陣の説明を受けていた。


「こっちが、音を魔力に変換する魔法陣で、こっちが魔力を音に戻す魔法陣だよ」


 紙に刻印された2つの魔法陣。

 どちらも直径10センチぐらいだが、かなり曲線的で複雑な魔法陣だ。


「へ~、これって何回も使えるの?」


「ん~ん、これは一回だけ。何回も使いたいならもうちょい弄らないとダメ~。

 後、追加で魔力も必要だよ。魔石とかもいる~」


「ふむふむ。この魔法陣ってアム以外も作れるのか?」


 アムは考える。頬を膨らまし唇を尖らせる。


「わかんな~い。音魔法使える人なら出来るかも。でもアタシ会った事ないんだよね~」


「へ~、そっかレアなんだよね?」


「そう! レアなんだよ! スゴイ?」


「うん、凄いよ」


「えへへ~」


 アムは褒められて満面の笑み。


「よし、買い物でも行こうか」


「にゃ~ん、お腹空いた~」


「ついでにご飯も食べようか」


「やたー」


 見た目とは裏腹に食いしん坊なアムとご飯食べて、色々店を回る。

 雑貨店を中心に回り、目星をつけていた物を購入して店に戻った。



**


「さてアム先生」


「えへへ~なに~?」


 先生と言われてご満悦なご様子。


「今日は『メッセージボックス』の商品開発をしようと思う」


「メッセージボックス?」


「ほらダンクさんの声を入れたやつあるだろ?」


「あ~あれね」


 一回しか使えないボイスレコーダーみたいなものなんだけど、商品名『メッセージボックス』と名付けた。

 ネーミングセンスの無さは、まあ勘弁してほしいところです。


 ダンクさん用のメッセージボックスはかなり高額になってしまった。

 まあ、告白用だったからいいんだけどさ、製品にするにはちょっと高価すぎる。

 あとは陶器を使ったから衝撃にも弱い。

 アイシャさんに持っていくとき、ヒヤヒヤしたもんなあ。


 そんなわけで安価かつ耐久性があってしっかりメッセージを伝えれる商品。

 製品版『メッセージボックス』の開発に取り組むことにした。



**


「魔法陣なんだけど、これより小さくはならないよね?」


「ん~ムリ~」


 音を魔力に変換する魔法陣は直径10センチぐらいだ。

 これがサイズの基本になるな。


「もう一回確認するんだけど、え~っと『音を魔力に変換する魔法陣』に喋りかけると近くにある魔石に魔力が保存されるんだよね?」


「そだよー」


「その魔石を、『魔力を音に変換する魔法陣』に乗せると――」


「声が流れるよ~」


 仕組みとしては簡単だ。


「じゃあ、作ってみよっか」


「うん!」


 試行錯誤しながら『メッセージボックス』の製作に取り掛かることになった。



**


 素材は木材を選ぶことにした。安価だし衝撃にも強い。

 まずは10センチ四方の木製箱を買ってきて、箱の中に『魔力を音に変換する』魔法陣を仕込んだ。


 そしてその上に『絶縁魔紙』を敷く。これは魔力版の絶縁紙で、勝手に魔法陣が起動しないように敷いてある。

 これは結構メジャーな仕掛けで、魔方陣の誤作動防止で魔法製品によく使われている。


 次は箱の中に魔石を仕込む。

 魔石は使用済みで構わないので、我が家にあった使用済み魔石を使った。


 魔石はモンスターが落とすものだけど、魔石っていうだけあって魔力が入っている。

 魔石は電池やバッテリーに近い。魔力を流して起動する製品には魔石が必須だ。

 コンロ、冷蔵庫、クーラーなど、家庭用品にも魔石は必須だ。


 魔力が多い人なら自信で魔石に魔力を籠めることも可能らしいけど、僕は殆ど魔力を持っていない。

 そもそも魔力を持つという感覚さえわからない。

 そんな僕にとって魔石は、現代社会における電気やガスのようなものかな。


 そして最後に『音を魔力に変換する』魔法陣を仕込んだ蓋で閉じる。


 とりあえずこれで『メッセージボックス』の試作機が完成なわけだ。

 仕組みは非常に簡単で、『音を魔力に変換する』魔法陣(『譜面スコア』)に喋りかけた声が魔力に変換される。そして魔石内に保存される。

 空の魔石は現代社会における記憶媒体の役割だ。USB……いやフロッピーぐらいの容量だけどさ。


 ここまでが第1段階。後はメッセージを届けたい人に、声を吹き込み済みの『メッセージボックス』を送り届けてもらう。


 そして、受け取った人に『絶縁魔紙』を引き抜いてもらう。

 『絶縁魔紙』を引き抜くと、魔石に蓄えられた魔力は箱の中にある『魔力を声に変換する』魔法陣(『演奏コンチェルト』)に移動する。そうすればメッセージが流れる。


「よーし、完成だー」


「ぱちぱちー」


「早速試してみよう!」


 何を吹き込もうか、とりあえず晩飯前だし……。


「アム、何食べたい?」


 『メッセージボックス』の中に今聞きたいことを吹き込んでみることにする。


「上手くいったかな?」


「だいじょぶじゃな~い? お腹すいたー」


「はは、これが終わったらご飯にしようか」


「やたー」


 さて、次は『絶縁魔紙』を引き抜いてみる。上手くいくかな?


『アム、ナニタベタイ』


「お~、う~ん……」


 声は流れた。だけど……。


「ぷぷ、なんかモゴモゴしてるね」


 意図した動きはしたんだけど、確かに曇った音になってしまった。


「箱の中に魔方陣を入れたからか」


「そーかも~」


 さて、どうしようかな。音量を上げると魔方陣はさらに大きくなりそうだし。

 いっそ、聴く側の人が耳に当てて使うようにお願いするか……。


 考えているとアムが『メッセージボックス』を弄りだした。


「う~ん。そかそか」


 アム指が紫色の光を放ち、魔方陣を弄る。


「たぶんこれでイケるよ~」


「ほんとに?」


「うん~、再生~」


 『メッセージボックス』から声が流れた。


『アム、何食べたい?』


「おお、上手くいってるね! 何したの?」


「音の出る方向を底向けにしただけダヨ~」


 箱の底面を指さした。

 なるほど、発生する音を魔方陣の上から魔方陣の下、つまり箱の下にしたんだね。


「流石、音の専門家だね~」


「へへ~、えらい? えらい~?」


「よくやった~、今日のご飯は奮発しよう」


「やたー!」


 『メッセージボックス』が出来たので舞い上がってしまった。

 アムが嬉しそうに食べるもんだからついついたくさん作っちゃったなあ。



****


 翌朝6時。


 僕たちは1階にいた。

 アムは見た目ギャルというかクラブ系っていうか夜型人間ぽいけど朝強い。睡眠時間が3時間で十分だし。

 僕は6時間は寝たい人です。


「ねえ……」


「――うん」


「この……『メッセージボックス』って売れるの??」


「う~ん……」


 昨日更に改良を加えて、高音質な『メッセージボックス』が完成した。

 完成したはいいが、どうやって売ればいいんだろう。


 『メッセージボックス』ってのはつまり、声の手紙だ。

 だけど手紙よりは内容が少ない。長くて30秒のメッセージだ。遠方の人に伝言がしたいなら手紙のほうがいい。


 ダンクさんの告白は『声』で伝える点が非常に重要だった。

 しかし同じようなケースってあるだろうか……。口下手な男性が告白する際の道具?

 限定的すぎるし、買う人も恥ずかしいだろうな。

 今から告白します! って宣言しているようなものだし。


「ちょ、ちょっと考えるよ」


「うい~」


 作ったはいいものの売る人がいない。アイディア倒れだったかも。


 ちょっと残念だけど、落ち込んでる場合じゃない。店の準備をしなくっちゃ。

 最近はアムが現れたり、ダンジョンに行ったりで店を閉めることが多くなっていた。


 収入的には大丈夫なんだけど、ちゃんと営業しなきゃね!

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