第8話 大手通信会社社員、恋のキューピットになる
**アイシャ視点**
何か変や、ダンクがおかしいねん。なんか余所余所しい。
この前なんてご飯誘ったら、「よ、予定がある」やって。
イラっとして問いつめたら、「い、言えない」って言って逃げてしもた!
隠し事なんて初めてちゃう? ウチに言えないことってなんやねん。
まさか、オンナ? 嘘やん。
ま~、いつか告白してくれると思てたけど、8年も経ってしもたしな。
愛想尽かされてもしゃーないわ。
何度か告白しそうな雰囲気やったけど、照れてもうて……喋りまくってもうたし。
ウチのアホ。
ちゃうちゃう! ウチは悪くないわ!
そこは男の子がバシっと決めてくれなあかんで! 流行っとるやん『壁ドン』。
ウチを壁際に追い詰めて、壁をドーン!
でもダンクがやったら壁を突き破いてしまうわ。
「わお! 通気性よ~なったね。これがホンマの壁ドーン! ってなんでやねん!」
なんでやねん……。
****
一人で深酒してしもた。全部ダンクが悪いわ! ダンクのアホ!
うう、頭痛いわ~。
今日も北のダンジョンで狩りや。
正直、西のダンジョンでも問題ないんやけど。近いし気楽なんよね~。
は~、頭痛い。
**
「あ、アイシャ」
「なんや、調子悪そう~か? 余計なお世話や、ちょっと二日酔いなだけやし。
ダンクは調子良さそうやな~、昨日はどこ行ってたん? なあ?」
「い、い――」「言えへんねやろ! 知っとんねん。ダンクも隅に置けへんわ~。ほら休憩終わりや! 行くで!」
またやってしもた。寂しそうな顔させてもうた。
アホアホ!
**
今日もごっつモンスター倒したな~、は~しんど。
お腹すいたなあ。いつもみたいにご飯食べに行きたいねんけど。
「なんや、また予定かいな」
「す、すまん」
「ええねん、ええねん。可愛い女の子でも捕まえたんやろ? はよ行けボケ!」
「ち、ちが」「じゃあ何しにいくねん! 言えへんねやろ、はいはい。ほな!」
「あ、アイ……」「うっさい、はよ行け!」
なんでウチが泣かなあかんねん、アホ。
ダンクのアホ。
**
はあ、家に食べ物なんて無いねんけどな。走って帰ってきてしもた。
昨日の残りもんの干し肉とお酒でも飲もか。
干し肉、味せえへんわ。乾燥してカッチカチやわ。まっず。
あ、そういえば新しい服買ったんやったわ。
ちょっと胸元が大胆やねんけど可愛いわ~、ダンクは目のやり場に困ってまうかな?
……はあ、困らへんか。今頃イチャイチャしとるんやろか。
寝よ寝よ。
『ゴンゴン』
ん? こんな時間になんやろ。
まさか、ダンク? なわけないか? よっこいせっと。
「どなたですか~?」
「宅配便です」
「宅配便~?」
宅配便なんて久々やわ。田舎のオトンからやろか。
小窓から覗いたら、箱を持った兄ちゃん。
ちょっと怪しいけど、まあ、やばかったら大声出せばええし。
「夜分すいません、お昼はいらっしゃらなかったので」
「あ~せやね」
「えっとアイシャさんでよろしかったでしょうか、問題なければサインを」
「はいはいっとな」
随分小さい箱やな。オトンちゃうんかな?
「ありがとうございましたー!」
「どうも~」
なんか……あの配達員、見覚えがあるけど思い出せへんわ。まあええけど。
しっかし、なんやろこの箱。差出人も書いてへんやん。ほんでもって割れ物注意やて。
おっきいケーキ入れる箱ぐらいのサイズやな。開けてみよか。
ちょちょいの~ちょいと。
(なんやろ、これ?)
箱の中には、手紙と陶器の箱やね。 え? 『ダンクより』?
ダンクの手紙やん。なんやねんなんやねん。
――――――――――――――――――
―アイシャへ―
俺の思いを言葉にしました。箱を開けてください。
――――――――――――――――――
どゆこっちゃ? 手紙には……他になんも書いてへんよねぇ?
箱ってこの箱かいな? 花柄で可愛らしいな~。ウチの掌にぴったりサイズやね。
開けてみよか。なんか緊張するわ!
「パカっとな」
なんや紫色の光や! 罠か?
『あ~、アイシャへ』
なんや! 箱の中からダンク声がしてきたで!
『突然スマン。今日はだな……思いをだな……伝えたくて……だな、声をだな……』
音を魔法にしたんかな~? そんなん聞いたことないけど。
でも「だなだな」言い過ぎやで。相っ変わらず口下手やな~。
『そうだな、声で俺の思いを届けたいと思う』
なかなか、オシャレなことするやん。
『あー、俺は口下手で、思いを伝えるのが苦手だ』
そんなん知っとるし。――知っとるし。
『目の前で話すと上手くいかない気がして――』
いつもウチが喋りまくってまうからね! ホンマすいません!
『ちゃんと伝えるために、こんな方法にした』
照れ屋やから、『間』が耐えられへんねん。ありがとーな。
『ゴホン、その、俺はだな、えーっと……』
は、はよ、はよ言え! じれったいわー!
『アイシャのことが』
ウ、ウチのことが……
『――好きだ』
うん、ウチも好きやで!
ちょっと目がウルウルするわ。なんでやろ。
『ずっと言いたかったんだが、なかなか言えなかった、スマン』
ええんやで。
『あと、この頃、秘密が多くてごめん。あと浮気なんてしてない』
わかっとるよ。
『だから、えっとだな。もし付き合ってくれるなら、初めて会った場所に来てほしい』
あそこやな! すぐ行くで! あ、おニューの服着て行ったろ!
『アイシャ』
なんや! 服着とるねん! しもた、ブラとパンツの色違うやん!
『愛している』
『愛している』
『愛している』
なーー!! 何回言うねん! ウキーー!!
**ダンク視点**
夜は冷えるな。ふう。
今頃、俺の声は届いているだろうか。
しかし、あの2人には困ったもんだ。
初めは『声を届けましょう』と言っただけだったのに、どんどん作戦が膨らんでいったな。
*3日前*
「答えを貰うのは翌日でもいいんじゃないか?」
「えー」「えー」
二人は兄弟みたいに同じ顔と同じトーンだったな。
「ないわー」「ないですねー」
「そ、そうか?」
すごく俺がダメな男みたいな気分になったぞ。実際そうかもしれんが。
*2日前*
「箱もこだわったほうがいいんじゃないかな」
「あー! デン、冴えてる~」
二人は俺のために色々考えてくれてる。ありがたい。
ありがたいんだが、悪ノリしてるようにも見える。
「は、箱?」
「ダンクー、アイシャが好きそうな箱ってなに~?」
アイシャは可愛いのが好きだな。派手なのも好きだ。
「派手なのが好きだな」
「もっと詳しく知りたいですね、色とか模様とか」
「もー! お店に行こう! そこでえらぼ~」
閉店間際の雑貨屋さんに駆け込んで、30分以上選ぶことになった。店員さん呆れてたぞ。
*前日*
「やっぱり会うときはオシャレな格好のほうがいいと思うの!」
「お、おう」
準備は大体終わった。段取りも決まった。あとは当日を待つだけだ。
と思ったら、まだ終わらないみたいだ。
「あとは~、お花もいいわね! やっぱりバラかしら」
「あー、アイシャはバラが好きだな」
「じゃあ、当日はバラ用意しときますね」
「私はオシャレにしてあげるね!」
「お、おう」
こんなに色々考えないといけないものだったのか……。
告白は難しい。
*本日*
ジャケットなんて初めて着た。髪の毛はツンツンしている。
そして手にはバラの花束。気取りすぎだろ。
俺達の所属しているギルド目の前の公園。――初めて出会った場所だ。
**
昔から人付き合いが苦手だった。誰かに声をかけるなんてできなかった。
だから冒険は基本ソロで、たまに集団募集のクエストに参加してた。
公園で一人、飯を食っていると突然声をかけられた。静かだった公園が一瞬で賑やかになった。
「アンタ! 冒険者やろ? 暇? パーティー組まへん?」
「え」
「前、集団討伐クエストん時に一緒やったんやで! あんたメチャ強いやん! ウチ回復魔法使えるから相性ええと思うねん」
「おお」
「聞いてーな! 前のパーティーのリーダーがセクハラしてきてん! 回復してやってんのに胸揉んできたんやで? サイテーやろ!」
言葉を挟むことをあきらめた俺は、大きくうなづくことにした。
「あんた、優しそうやしな。今日予定あるん? 無いんやったら軽~く北のダンジョンでも行こ」
用もなかったし、うなづいた。
「ほないこか! あ、名前なんなん? うちはアイシャやで!」
「俺は……」
**
「ダンク!」
「アイシャ」
アイシャが来た。初めて見る赤いワンピース。
相変わらず、少し丈が短い。胸元は開きすぎじゃないだろうか。
急いで来てくれたんだろう、髪が少し乱れている。
髪を申し訳なさそうに纏めている。少し顔が赤い。
手には俺の声を入れた陶器の箱。
「よ、よお!」
「お、おう」
「なんかオシャレなことして~、びっくりしたでー!」
「あ、ああ、デンとアムに手伝ってもらった」
沈黙。
「へー、音を魔法で閉じ込めたんかな~、めっずらしいー!」
「アムの魔法みたいだ」
「そうなんや~、へ~~」
沈黙。
「な、なんや、今日はかっこええな! バラなんてもって~」
「ああ、こういう時はカッコつけろって」
「ふ、ふ~んええやん」
沈黙。
「い、いや~今日は冷えるなあ~」
「アイシャ」
「は、はいぃぃ!」
「……俺と付き合ってほしい」
俺は片膝をついてバラを差し出した。段取り通りだ。
「グスン」
「え?」
「ひっぐ、うええん」
「ど、どうした」
「どうしたやないねん、言うのおっそいねん、グスン」
「す、すまん」
ど、どうしたもんかな。
「ほら!」
「え?」
「こういう時は、抱きしめるもんやで」
「あ、ああ」
俺はアイシャを抱きしめた。
俺たちは今日から付き合うことになった。
**10秒後**
バシバシバシ!! アイシャが俺の胸を叩く。
「ど、どうした」
「『ど、どうした』やないねん! 息で出来へんやろ! 死んでまうがな!」
「あ、ああ、スマン」
「ホンマ付き合って初日に死んだら可哀想やろ!」
「ス、スマン」
アイシャは息を整えながら涙で濡れた顔も整えた。
「――オ、オナカスイタナー」
「おう」
片言だな。目線も泳いでるな。
「ダンク、家に食べもんある?」
「あ、ああ」
俺はたくさん食うからな。家に食べ物は多い。
「ほな、ダンクの家いこか」
「め、メシなら店でもいいぞ」
アイシャが俺の脚を蹴り飛ばした。
「いて」
「あんたの家に行こう言うてんの!」
「お、おう」
「女の子にそれ以上言わすなや……」
ジャケットの袖を掴まれた。心臓が飛び出しそうになった。
「はよいこ」
「おう」
人生で最高の日になった。
**デン視点**
僕のやるべきことは全て終わった。
ちなみに、配達員は僕だ。アムの魔法で声を変えた。
加えて少し化粧して、髪形を変えたらなかなかいい変装だ。
流石に目は合わせれなかったけどさ。
アイシャさんが、家から飛び出したのを見送ってからアムと合流した。
「お待たせ」
「おつー」
告白場所である公園が見える酒場で集合した。
遠目ではあるが一応2人が見える。
「上手くいくかな~」
「大丈夫じゃな~い」
アムは左肘をテーブルに左掌を頬に置き、おつまみをボリボリ食べつつ、外を眺めていた。
「いや~緊張するよね」
「そうね~」
なんかつれないな。機嫌でも悪いのかな?
「いや~、声を変える魔法すごいね。僕の世界にもヘリウムガスってのがあってさー」
「ちょっと黙って!」
右手で僕が喋るのを制止した。
あれ? 左掌は頬ではなくて耳にあてているな。何か聞いているんだろうか。
「うん、上手くいったみたい」
「なんか聞こえてるの?」
「えへへ~、盗聴~」
左掌が紫色に光っている。アムは自慢げな顔だ。
「そ、そこから聞こえるの?」
「遠いからあんまり音は良くないけど~」
盗聴器みたいな魔法だな。アムは再度左掌を耳に当てた。
「いや~ん、アイシャったら大胆~」
「お、おい、盗聴しちゃだめだぞ!」
「えー、デンは聞きたくないの?」
聞きたくないかって聞かれたら、そりゃ聞きたいさ!
「いや、まあ、う、上手くいったか確認しないとな! そう確認!」
「ふ~ん」
アムは綺麗な大きい瞳で僕を見つめる。僕は目をそらした。
「確認・・ならしょーがないね~、まってて~」
アムは取り皿に魔法陣を作った。
「はい、出来たよ。これで聞けるよ」
「あ、ありがとう。耳に当てたらいいのかな」
アムは嬉しそうに首を縦に振った。
僕は、ゆっくり小皿を耳に当てた。鼓動が速くなる。ちょ、ちょっと興奮している。
『……あ、……ああ、いやん……』
お、音が遠い。でもアイシャさんらしき声が聞こえてくる。
僕は目を閉じて、耳に集中する! 五感をすべて聴覚に!
『うう……ぉ、あ、ダメ……』
何がダメなんだ!? そこのところを詳しく!!
『…あ、あん……で、でん』
ん? 『でん』?
『ぷぷ、ぷぷぷ、デンのエッチー!』
「う、うわあ!」
器の中からアムの声が聞こえてきた。
アムが不潔なモノを見るような目で僕を見ていた。
「プークスクス、エッチなことばっか考えてるからだよー」
「ち、ちが!」
「アレレ~? 心音すごいよ~? ど~しちゃったのかな~? プププ~」
興味本位で盗聴なんてしちゃいけない。
そう心に刻んだ。
何はともあれ、2人が上手くいったみたいで良かった良かった。
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