第7話 大手通信会社社員、穴の中で閃く

「ハアハア……」


 息苦しい。頭が痛い。足も痛い。

 穴に落ちて気絶していたみたいだ。


 しかし……騒がしいな。


『デン! ダイジョウブ!?』

『デン! 返事して!』

『デン! 生きてるよね!?』

『デン! 返事してよー!』

『デン!』『デン!』『デン!』『デン!』『デン!』『デン!』『デン!』


 み、耳元でう、煩い。

 目を開けてみると、大量の『音玉おとだま』が投げ込まれている。


「おお、生きてるよー」


 返事してみるが大量の『音玉』で僕の声が聞こえないみたいだ。

 瘴気で良く見えないけど、高さは5メートル以上あるみたいだし。


 それにしても、アムのやつ。『音玉』放り込みすぎだよ。

 絶えずゆっくり降ってくる『音玉』。


 目一杯大声で返事してみるけど――。ダメだ聞こえてないみたいだ。


 『音玉』が『デン!』『デン!』『デン!』連呼してくる。

 イラっとしたので、『音玉』をひとつ投げ返してみた。


「てい!」


 ふむ、伝わったかな? も1つ投げてみよう。更にもう1個。ていていてい――



**アム視点**


「うえーん、デンー、死んじゃやだー!」


 およ? なんか飛んできた。


『デン!』


「あー、アタシの『音玉』じゃん!」


 デンが投げ返してくれたんだ! 良かった!

 え!?


「い、いて!」

『デン!』


 も~、頭に『音玉』がぶつかっちゃった。

 え!? 何個も『音玉』が飛んできたー。


「い、いたい!」

『デン!』


「ちょ、ちょっと!」

『デン!』


「なによこれ!」

『デン!』

『デン!』

『デン!』

『デン!』


 む、ムカツクー!



**『デン!』視点**


 『音玉』が降ってこないな。投げ込むのを止めたのかな?

 ん? なんだこれ? 大きな『音玉』がゆっくり降ってきた。

 手に持ってみる。


『痛いじゃないのよ!! バカデン!! デンデンデン煩いしー!』


「うわ!」


 『音玉』から大音量のアムの罵声が流れてきた。


「お、おーーい、アムー、ゲホゲホ」


「もう! デンひどい!」


 何がひどいかわからないけど謝っておくことにした。女性が怒るときは男性が悪いと決まっているからね。


「ご、ごめーん。ゲホゲホ」


「あ、瘴気しんどいよね? 助け呼んでくるから待っててー!」


「おーう」


 僕は布を湿らせて口に当てる。

 瘴気を吸い過ぎると体調不良になるからな。もう若干不良気味だけどね。


 1つ『音玉』が転がっていたので拾った。


(『音玉』ってボールみたいだな。ふむ、軽いな)


 持っていた『音玉』が割れて『デン!』と音を発してから消えた。


(はは、まんまICレコーダーだよな~これ)


 ICレコーダーは音声を電気信号に変えてデータを保存する。

 『音玉』は音声を魔法に変換して保存する……んだと思う。


(あれ……これって商売になるかもしれないな)


 色々思いついたけど、意識がやばいな。瘴気大分……すった……し



**アム視点**


「『反響エコー×2』」


「からの~~、『乱反響ハウリング』!」


 力持ちの人探さないとー!

 え~っと、近くには~4組か。こっちは女の子3人組ね。

 こっちは1人男の子っぽけど魔法使いかな~。

 あ、この2人組いいぢゃん!



**???視点**


『ちょっと待って!!』


「う、うお! なんだ?」


 振り返ると誰もいない。でも確かに女の声で呼び止められた。


「なんやダンク。相変わらず臆病なんやから~~」


「ち、ちが」


「どうせモンスターの影にでも驚いたんやろ! デカイのにビビリやわー!

 そんなんやから彼女できへんねんで!」


「あ、アイシャもいないじゃない……か」


「ウッサイ! 私は選んどんねん! 釣り合う男がいーへんねん!

 ダンクと一緒にすなすな! だいたいねー……」


「お、おい」


「なんやねん、こっちが喋っとるねんで!」


「来たぞ」


「何がや!」


「女の子だ」


 妙に色気のある女の子こっちに走ってきた。


「すいませーん! 助けて欲しいんだけどー!」


「ど、ど――」「どないしたん!」


「デンが、仲間が穴に落ちちゃって、引っ張り上げたいの~」


「大変やん、急がな! ダンク行くでー!」


「お、おう」


 呼び止められた声と、目の前の女の子の声は同じだった。

 「呼んだのは君かい?」と聞きたいが、聞きそびれちまった。

 ま、いつものことだ。 


 俺たちは突如現れた女の子についていくことにした。

 しかし……なんてハレンチな女の子なんだ。

 アイシャもそうだが露出が多すぎる。お、俺の気も知らないで。


 俺たちは4Fの最奥まで走った。


**


「ここなんだけどー!」


 中を覗いてみた。かなり瘴気が蔓延している。マズイなこれは。

 オークらしき死体が転がっているが一旦放置しよう。


「お、お――」「落ちてどれぐらいなん!」


「15分ぐらい!」


 微妙な時間だ。急を要するかもしれない。


「ア――」「わかった! 回復魔法の準備やな!」


「お、おう」


 念のため命綱を用意し、俺は穴に飛び込むことにした。

 壁を伝いながら降りると憔悴しきった青年が水を浸した布で口を覆っていた。


「大丈夫か?」


「あ、アム?」


 ボロボロだけどなんとかなりそうだ。俺は青年を担いだ。


「アイシャー! 戻るぞ!」


「わかった!」


 壁の強度は十分だったので難なくよじ登ることが出来た。しかし軽いな。

 アイシャの前に横たわらせた。


「デンー!!」


「かなり深刻やな! 待ってて!」


 アイシャの回復魔法はLv4だ。問題ないだろう。

 これで一安心だ。



**デン視点**


 意識が戻ってきた。目を開けることにする。


「あれ……アム。イメチェンした?」


「お、意識戻ってきたな! 回復魔法かけとるからすぐ気分良くなるで!」


 魔法使いらしいトンガリ帽子をかぶった関西弁の女の子が目の前にいた。

 なんかちっちゃくて可愛いけど、結構露出が激しい。

 魔法が使える人ってのは露出癖でもあるのだろうか。


「デン! よかったー!」


 視界の左側からアムが現れた。ちょっと涙目だ。心配させて申し訳ないな。

 泥を飲んだような気分だったが、みるみるうちにスッキリした。回復魔法恐るべし。


「ふう! もうええやろ」


「よかったー!」


「あ、ありがとうございます」


「ええねんええねん、助け合いやからね!」


「あ、あ――」「あ、コイツはダンクね! うちらパーティー組んでんねん。ダンクがあんた引き上げてくれたんやで~」


 視界には入っていたけど、でっかい男だ。ドルゴさんより大きいから190センチ以上ある。

 上半身が屈強で、リアルにゴリラのようだ。


「あ、ありがとうございます、僕はデンといいます」


「ダンクだ。――な、な」「そうそう! なんであんな穴に落ちてたんよ? 危ないとこやったで自分~」


「い、いや~不慮の事故で。ははは」


 オークに吹っ飛ばされて、更にアムの魔法で吹っ飛んで落ちたんだけど、説明はしづらいな。


「む、アイシャ」


「ん? あ、結構ええ時間やね! はよダンジョン出たほうがええな!」


 横たわっていたアームドオークから魔石をいただいて、すぐに出口に向かった。


**


 出口までの道中はダンクさんとアイシャさんのコンビが敵を薙ぎ払ってくれた。

 ダンクさんが屈強な肉体で突進し、ダメージはアイシャさんが治療する。

 2人は物理攻撃しか出来ないがかなりいいコンビだ。


 難なくダンジョン入口まで戻ることができた。


「ありがとうございました、おかげで助かりました」


「ええねん、ええねん。気にせんでええよ。

 うちらここのダンジョン管理してるギルドのもんやし」


「あ、そうだったんですね。え~っと何かお礼したいんですけど……、あ、これ受け取ってください」


 アームドオークからドロップした魔石を差し出した。


「さっきのオークのやつやん。ってこれ大分純度高そうやね!」


「アームドオークだったよ~」


「アームドオーク!? 頭ブチまけとったから気づかんかったけど、レアやん!」


「瘴気につられて5Fから出てきちゃったみたい」


「は~、こわ! てかこんなん受け取れんよ、売ったら5,000ゴールドぐらいちゃう?」


 魔石で5,000ゴールド。いい値段だ。

 初級冒険者が1日頑張って10,000ゴールドって聞いたことある。

 家計が火の車の当店としては、非常にありがたい収入だ。


 いやいや、命の恩人に対して払う礼としては問題ないだろう。

 信頼は借金してでも買えっていうし。


「いえいえ、命の恩人ですから。受け取ってください」


「ど、どないしよか。ダンク」


 身長差が40センチぐらいはある2人は顔を見合わせた。


「ねぇ~、お腹すいた~、おでん食べていい~?」


「ああ、これで買っておいで」


「やった~、おっでん~」


 300ゴールドを手渡したら、アムはおでん屋にすっ飛んで行く。


「うちらもお腹すいたな、せや! お礼は晩御飯にしてーな!」


「え、でも」


「ダンクはめちゃ食うから、結構ええ値段するしね! それでいこ!」


 ダンクさんは少し照れている。姉さん女房だなあ。


「わかりました! 今日は好きなだけ飲んで食べてください」


「よーし、ほな街にもどろか!」


 おでんを美味しそうに食べるアムを連れて街の飯屋に向かった。


****


 アイシャさん達は、街の北側に住んでいるとのことだ。アイシャさんの行きつけの店に行くことにした。

 居酒屋っぽい大衆食堂で、お値段もリーズナブルだ。

 「遠慮せずに頼んでくださいね」と言ったら本当に遠慮せずに頼んだ。――アムが。


 男性陣はビール。女性陣はカクテルを頼みグイッとやる。

 そしてテーブル一杯に並んだ料理をガンガン食べる。――アムが。


「おいし~!」


「は、はは」


「ええ、食いっぷりやね~! ほらダンクも負けずに食べやー!」


「――おう」


 アムとダンクさんはどんどん食べた。それを肴に僕とアイシャさんはお酒を飲む。

 2人はひたすら食べまくる。アイシャさんはケタケタ笑いながら酒をガンガン飲む。


 1時間半ぐらい経過した頃、アムとダンクさんはさすがに満足したみたいで一息ついた。


「ぷはー、お腹いっぱい」「うむ」


 気持ち良い食いっぷりだけど会計が怖いよ。

 まあ、おおよそいくら頼んだかは計算している。7,000ゴールドはいかないはず。

 予想以上にアムが食べまくったのが誤算だけど予想範囲内かな。


 今日のダンジョン探索で、アームドオークの魔石を除いても売り上げは20,000ゴールドにはなる。

 はっきり言って大黒字だ。アム様様だよ。


 そしてアイシャさんはいつのまにか寝てしまった。


「むにゅむにゅ」


 気持ちよさそうに寝ている。はだけた胸元が見えそうでドキドキした。


「ね、寝てしまったな。いつものことだが」


「ははは、お二人は付き合いは長いんですか?」


「もう8年になるな」


「結婚してるの~? 新婚~?」


 ダンクさんはデカイ掌をブンブン振った。


「つ、付き合いというのはそういうのじゃない。――パーティーとしてだ」


「えー、でも好きなんでしょ~、チューもしてないの?」


「そ、そういうのは、えっとだな」


「告白しないの~? アイシャ可愛いから誰かにとられちゃうよ~いいの~?」


 ダンクさんは顔が真っ赤になった。ゴリラ顔だからか発情したゴリラみたいだ。


「こ、告白は何度かしようとしたんだ。だけど上手くいかなくて……」


「あ~、なんか全部喋られちゃいそうですよね」


「ウケル~、アイシャマシンガントークだもんね~、あはは~」


 僕も口下手だからよくわかる。飲み会とかで話のうまい奴がいると何も話せなかったりする。

 話のタイミングがどんどんなくなっていくんだよな。


「なかなか、思いを伝えるのは難しい……か」


 伝えたくても伝えれなかった経験なんて僕もたくさんあるし。

 口下手だと尚更だよね。


「あ!」


 僕は思いついた。というか思い出した。アムを見つめる。


「ん~? デン、どうしたの~?」


「アム、『音玉』って誰かの声も入れられるか?」


「出来るよ~」


「じゃあ、『音玉』を……、そうだな長いこと置いておいたり、スイッチみたいなもので発動するように出来るか?」


アムが小悪魔のような笑いをした。


「ふ~ん、デンってば悪いこと考えてるわね~ふふ」


「わ、悪くはないだろ」


「ふふ、デンのやりたいように出来るよ。ちょっち『音玉』とは違うけどね~」


「そっか……あとは……」


 僕は考える。多分出来るはずなんだよね。

 僕たちははダンクさんを見た。


「な、なんだ」


「ダンクさん」


「お、おう」


 アムはニヤニヤしているが、僕は真剣な顔で言う。



「告白のお手伝いをさせていただけませんか?」

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