第6話 大手通信会社社員、北のダンジョンを進む

 1Fを進む。さっそくスライムが現れた。


 この世界のスライムは、ドクラエ風のコミカル路線のスライムではなく、巨大なアメーバっぽい。

 小さなコアを護るようにスライムジェルが覆われている。


「ど、どうする」


「ピョイ」


 アムは小さい光の玉を投げた。


「え?」


「なによ?」


「う、動かないね」


「もう倒したもん」


「そんな馬鹿な……」


 恐る恐る近づくいてみる。確かに死んでる。


「どうやったの?」


「『音玉オトダマ』をコアにぶつけたの」


「お、オトダマ?」


 アムは小さい光の玉を人差し指で弾いて、僕に飛ばしてきた。軽くデコピンでもするように。

 そして僕にぶつかった光の玉は、弾けて中から『ぴょい~』とアムの声がした。


「っわ!」


「スライムなんて、『音玉』の振動でコアを壊せるし~」


「す、すげえな」 


 スライムはコアを潰せば死ぬ。倒すだけなら、魔法で攻撃すると簡単に倒せる。

 ただしスライムからドロップする『スライムジェル』を得るためには出来るだけ傷付けずに倒す必要がある。


 倒したスライムの状態は最高レベルだ。


「こんな状態の良いスライムはなかなかお目にかかれないぞ」


「ふ~ん。もっと奥に行こうよ~、スライムなんて倒してもつまんないし~」


「ちょ、ちょっと待って」


 収納空間からバケツ型の容器を出し、スライムジェルを詰めた。


「へ~【収納】スキルあるんだ~」


「Lv2だけどね。よしオッケー」


 これだけでも万々歳だ。まあアムは全く満足してないけど。


「もーはやくー!」


「わ、わかったよ」


 スタスタ進み2Fまで進んだ。

 まあ2Fと言っても、別に階段とかがあるわけではない。

 管理ギルドの人がでかでかと『2F』と書いてあるから2Fなのだ。


 ゴブリンとスライムが現れたが全部『音玉』で倒した。


「ゴブリンも一発なのか……」


「知能ゼロだから、鼓膜破れてショック死だよ~」


 俺はせかせかドロップ品を拾う。通常モンスターは魔石を落とす。

 魔石は冒険者のメインの収入源だ。家電製品ならぬ、魔法製品は魔石で動くからね。

 コンロや冷蔵庫など日用必需品に魔石を使っているから換金性が非常に高い。

 まあ、ザコモンスターの魔石は大して魔力が入ってないので安いんだけど。


 アムはどうでもよさそうにしているが、僕としては生活に直結する。

 小さい魔石だけど、こんなに手に入るなんて夢のようだ。


 しかし途中からモンスターは寄り付かなくなった。

 アムが倒し過ぎたからだろう。


「デン~、次行くよ~」


「お、おう!」


 3Fに行くとリザードマンが出現した。

 実物は初めて見たけど、イメージ通りのトカゲのバケモノだ。

 大きさは身長1メートルぐらいだろうか。爪が痛そうだ!


「爬虫類だ~。耳が退化してて音魔法効きづら~い」


「や、やばいじゃん!」


「ふつーのトカゲさんならだいじょ~ぶ」


 アムは自分の手に何かを喋りかけた。声は聞こえない。

 手に魔力の玉が出来た。さっきの『音玉』より大きい。

 その玉をシャカシャカ振っている。


「こんなもんかな~、ぴょい」


 リザードマンに玉を投げつけた。

 ぶつかる瞬間、玉から大音量の『わっ!』というアムの声と衝撃がリザードマンにぶつかる。

 リザードマンは吹き飛ばされ、頭がグチャグチャになった。


「え、えぐい」


「『音叉爆弾おんさばくだん』だよ~。自分の声をチョー強力にして爆発させるの~」


「強力だけど、うるさい魔法だね」


「大声ぶつける魔法だし~」


 緑色の怪獣が大声をぶつけて攻撃するゲームがあったな。懐かしい。


 野生のリザードマンの肉は結構おいしいんだけど、ダンジョンのリザードマンは食べられない。

 瘴気が強すぎて、肉がすぐ腐敗するからだ。

 革も値段がつかないんだよね~。


 時間がもったいないので魔石だけ拾うことにした。



**


 僕の収納スペースは戦利品でいっぱいになった。

 満足顔の僕。欲求不満なアム。


「もー、ザコしかいない~!」


 4Fまで来たけど、モンスターはオークが増えただけ。

 アム曰くリザードマンよりオークのほうが倒しやすいらしい。

 聴覚が発達してるからだそうだ。


「ね~、奥まで行こ~、つまんな~い」


「だ、だめだよ、4Fまでなんだから」


「えー、じゃ~手前まで! ね!」


「わかったよ」


 アムがこんなに強いとは予想外だった。

 これだったら西のダンジョンでも大丈夫だったかもしれないなあ。


**


 4F最奥まで到着したが、アムにとってはザコしかいなかった。

 ちょっとレアなレッドスライムを見つけたけど、いつの間にか倒されていた。


「うう、進みたい」


 5F入口は目の前だった。立ち入り禁止の文字が壁面に描かれている。


「今度は難易度高いとこに連れてくからさ、今日は我慢してよ」


「ぅううう! もう!」


 プリプリ怒り出して、石ころを蹴とばした。


「むむ?」


「ん? どうした」


「あっち、なんか変」


 指差した側には何もないように見えた。

 ダンジョンの行き止まりにしか見えなかった。


「ちょっとまってね、『反響エコー』」


 アムは指をパチンと鳴らした。


「エコー?」


「音魔法で探知してるの」


 アムは目を閉じて集中している。真面目なアムの顔は綺麗だなぁと見とれてしまった。


「見て」


「え! 見てないです!」


「意味わかんない、あっち見て。あそこの岩、瘴気の吹き溜まりになってる」


「吹き溜まり?」


「瘴気が溜まって、崩落しかけてるの!」


「や、やばいじゃん!」


 アムを見ると、『音叉爆弾おんさばくだん』を作っていた。


「ま、まさか」


「ほっとくと、危ないし~。先に壊しとこうよ」


「あ、あぶないって!」


「ダイジョブダイジョブ~」


 ぴょいと魔法を投げつけ、見事に命中し、『どおーん!』と爆発した。

 『音叉爆弾おんさばくだん』の爆発音は色々あるんだね。


 アムがスタスタ爆発地点まで向かうので追いかけた。


「やっぱり結構でかい穴~」


「ひゃ~、落ちたら上がれないよ」


 深さ5メートル近い穴が出来ていた。


「お手柄だね」


「へへ~、帰りもおでん食べたい~」


「はは、わかった」


 あとは管理してるギルドの人にでも話せばいいだろう。

 一息ついて、僕は気を抜いていた。


「あちゃ~、瘴気につられちゃったのね」


「ん?」


 後ろを振り返ると青いオークがいた。大きさは2メートル近くあり筋骨隆々だ。


「おわぁ!」


「グギャアアアアアア!」


 僕は距離をとった。というか逃げた。アムの後ろに。


「ウフフ~、アームドオークね。5Fからきたのかしら」


 現れたオークは姿形は通常のオークと同じだ。色が緑ではなく青いだけで。

 だけど頭にはヘルメット、腕には手甲を装備している。


「確かちょっと魔法耐性があるのよね~、うざ~い♪」


 言葉とは裏腹に楽しそうだ。

 アムさん……悪い顔してまっせ。



**アム視点**


 せっかくボスっぽいの出てきたんだし楽しまなくちゃ。

 『音叉爆弾』の火力上げれば簡単に倒せちゃうんだけど~、デンにカッコイイとこ見せたいし~。

 まずは苦戦を演じなきゃ。


「くらえー『音叉爆弾』(小)、ぴょい」


「グガー!」


 うん、いい感じ♪ 逆上して怖さアップしてる。


「ま、まさかぁ! 『音叉爆弾』が、き、効かないなんて!」


「え、ええ! 大丈夫なのか!」


「デン、大丈夫。任せて!」


 うん、いい感じ♪ もう少し苦戦しなきゃ。


「『音叉爆弾』(小)! 『音玉』! 『音玉』! 『音玉』!」


「グガ! ッギャ! ッギャ!」


 キャハ、オーク怒ってる~♪ そろそろかな~。

 右パンチを避けてっと――


「しょうがなーい、必殺技しかないーい」


「おお、そんなのあるのか!」


 あ、デンのテンション↑↑ぢゃん!

 やっぱ男の子って必殺技に弱いよね~♪ ふふ。


「ギャー!」


 も~、遅い攻撃ね~。もうちょっと頭使えないの!?

 ピンチ感でないじゃん!

 そだ! 詠唱でもしよっと。あれ、ん~っと、どんなのだっけ。


「えっと、集え魔狂の音色よ――遊歩せよ夢魔の囁き――抗え!! ――だっけな」


 あ、出来た出来た。さっすがアタシ。


「『死韻しいん』」


 こんな大技チョー久しぶり~。ウフフ、すぐ逝かないでね♪



**デン視点**


 アムの両手が禍々しく紫色に光っている。あれはやばいだろ。


 オークの猛攻を何とかよけてる。いやかなり余裕はありそうだな。

 なんか苦戦してる感出したいんだろうけど、楽しそうだしな~。

 あ、飛んだ。軽やかだな~。


 オークの頭上を飛び越えて直接魔法を脳天に叩き込んだみたいだ。


「グ、ギャアアアア、ア、ア、ギアアアアアー!!」


「お、おい、すごい雄叫びだぞ」


「『死韻しいん』はチョー強い音魔法だしー。当然だしー」


「ど、どんな魔法なの?」


「頭の中で死への旋律が流れ続けるんだよ~、死ぬまで永遠に苦しむの、かっこいいでしょ!」


「お、恐ろしいわ!」


 倒れたオークはもがき、叫び続けていたがやがて止まった。死んだのかな。


「しかしすごい魔法だなあ、アムってやっぱりすごい強いんじゃないの?」


「あったりまえじゃん! ん~でもでもやっぱり直接攻撃系の魔法じゃないから、フツーだよ」


「たしかにサポートのほうが適正高そうだね」


 音魔法は汎用性が高そうだ。確か足音を消せるとか言ってたし、ヘイトを自分に集めたりもできそうだし。

 色々出来そうな魔法だな~。


「しっかし、アム。遊んでただろ~。本当は余裕で倒せたんだろ?」


「へへ~ばれたか」


「あ~んな強力な魔法使わなくても勝てたんじゃないか?」


「ま~多分、『音叉爆弾』でも倒せると思うよ~」


 僕はアームドオークに近づいた。


「これは……完全にオーバーキルだよなあ。

 でも外傷まったく無しで倒しちまうなんて、アムは冒険者向きだよ」


 よく見るとアームドオークは耳から血を流していた。


(自分で掻き毟ったのか? とんでもない魔法だな)



「あ、ダメ」


「へ?」


 アムのほうを見ると、初めて見る驚いた顔をしていた。


「グ、ッガアアア!」


「っな!」


 振り返るとアームドオークが、上体を少しだけ起こしていた。


「や、やべぇ……」


「ッガ!」


 アームドオークの右手が僕を狙う。散漫な動きだがそれでも速い。

 とっさに離れるように飛ぶ。直撃は避けた!

 だが、吹き飛ばされる。多分背負っていたリュックにヒットしたのだろう。


「おわああー」


 僕は転がった。盛大に吹っ飛ばされたけど背中のリュックがクッションになってくれた。


「デン! 『強振動ハードロック』!」


 倒れていた僕はアームドークを見ていた。

 そしてアムの指から放たれた魔法は、アームドオークの頭蓋を吹き飛ばした。


(やっぱり、一撃でたおせたんだな~)


 ソニックブームのような魔法なのか、余波がすごかった。


(おっと)


 僕は少し吹き飛ばされる。今日はよく吹き飛ばされる日だ。

 右手を地面に着いた。あれ?着かない。

 振り返ると穴だった。


「あ」


「デン!!」



 アムがさっき壊した瘴気溜まりの穴の中に、僕は転げ落ちてしまった。

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