第5話 大手通信会社社員、身の上話を聞く
「それじゃあ、説明してくれる?」
「何を~?」
「全部って言うと全部なんだけど、まずはなんで僕の店にきたの?」
「ぷふー、それはデンの歌がヘタッピだから」
わかりやすく掌を口元に当てた。リアクションがわかりやすい。
そしていつのまにか呼び名はデンになっていた。
「そ、その手前から話してよ」
OKサインが出ました。
「実はね~、ここからメチャ遠い場所で住んでたんだけどぉ、アタシって悪魔じゃん?
色々悪~いことしてたのね~」
「な、何してたの?」
悪さって聞くと、ドキっとするな。
「アタシって音楽とか音の悪魔なのよ、だからイロイロ~」
「色々っていうと?」
「ん~、アタシのいた街って音楽が流行ってる街だったんだけど~。
たとえば~、楽器に細工して朝の音楽をロック調に変えたり~」
人差し指が紫色に光り、かなりロックなラジオ体操みたいな曲が流れた。
エレキギターでも使ってるようなラジオ体操。確実にご老人は体を悪くしてしまいそうだ。
「お葬式のポクポクをチョーPOPにしたりとか」
1度手を握り締めるとロックラジオ体操が止まった。
再度人差し指を立てると、葬式の定番『ポクポクチーン』がPOPになったメロディーが流れた。
『ポ ポ ポ ポ ッポ ポクポクチーン♪ Yeah♪』
不謹慎だけどちょっと笑っちゃったよ。
人間シンセサイザーだね。悪魔だけど。
「はは、悪いことというか悪戯だな」
「てゆーか、めっちゃ楽しい街になってロックシティに改名したぐらいだし」
楽しいというか、アホなノリの街だ。
「でねでね、最近は音楽に飽きてきて、いろいろ音を弄ってたの~」
「ほうほう」
「踏むと『Yo!』って鳴る魔法陣を街中に仕込んだり、ヒソヒソ話が街中に聞こえるようにしたりとか」
想像したら笑えた。街中歩いてたら「Yo!」とか鳴ったら確実に驚くよ。
「っぷ、ちょっと面白いね」
「でしょー! でねでね、チョー偉そうなおっさんがいたの~」
「うんうん」
「みんなにマジウザがられてたから、いじわるしたの」
「それでそれで?」
アムは自慢げに話した。
「寝室に~スピーカーちょっと仕込んで~、夜の営みを街中に聞こえるようにしたのーウケル~!」
「ははは、それは、ひどい」
「そしたら、おっさん赤ちゃんプレイしてて~、マジドン引き~!」
「おお……」
僕だったら死んでしまうよ。羞恥に耐えれません。
断じて赤ちゃんプレイがしたいわけではないですよ。
「でもぉ、そのあとブチ切れて殺しに来たの」
おおう、いきなりディープな話だ。
アムは膨れている。やれやれといったところだろうか。
「アタシ~お城にすんでたんだけどー、完全に包囲されちゃって」
「へ~」
流石悪魔、悪魔といえば悪魔城。
「普段は足音消せるし、音魔法で居場所をかく乱するのなんて簡単なんだけどぉ~。
あのおっさん、【探知】Lv6の冒険者連れてきたのよ~」
タナカさんと同じLv6か。
「色々やったんだけど、逃げれなくて~奥の手使ったの」
「奥の手?」
アムはペロっと舌を出して、右手で机を殴った。
だけど、音がしない。
「あれ?」
「アタシ~音を魔力に変換できて、その逆もできるの~」
その後僕の目の前に右手を出した。その手から『ドン』と音がした。
「おお、すごい」
「へへ~、これでも音魔法はレアなんだからね~。
そいでね、奥の手なんだけど~、アタシ自身を音に変えれるの」
「ほほう」
「音化移動って魔法なんだけど、めちゃ魔力使うのよね~」
なんとなく全貌が見えてきたぞ。
「それ使って脱出したんだ」
「なんだけど~、探知のヤツにちょっと攻撃されちゃって軌道がずれちゃったのよ。サイアク~!」
「へ~」
「それで空を飛びまわってたわけ! さっさと着地したかったんだけど、音化移動中は視界情報がほとんど無くなっちゃうのよね~」
「ああ、だからか」
アムは『ご明察』って感じの表情をした。
「へへ~そゆこと」
「僕の歌を着地点にしたんだね」
「マジ、聞いたことのない音楽だし、変わったメロディだし、変な声だし、着地点にピッタリだったの~」
色々ひどい事を言ってる気がするけど気にしないことにした。
「まあ役に立って良かったよ。それより復讐は大丈夫なの?」
「大丈夫でしょ、むちゃくちゃ遠いし」
「そか」
本当に音速なら秒速340メートルだし、大丈夫かな。
なんか安心したんで、コーヒーを飲むことにした。
アムは左肘をテーブルに、左手を左顎に当てている。小悪魔っぽさが引き立つ。
「でさでさ」
「な、なんだよ」
「デンはショーバイニンなの?」
アムは前のめりで、目を輝かせている。ちょっと谷間が見えそうですよ!
僕は目を逸らしながら答えた。
「そ、そうだよ、いろいろ売ってる……よ」
「アタシ何すればいい? 売り子? 客引き? 接待?」
いつの間にかウチで働くことになったみたいだ。そういえば主従契約したらしいし。
契約内容は……まあいいか。
しかし……想像すると、確実にピンクなお店になってしまうな。
売り子はありっちゃありだけど。
目をキラキラさせてるし、何かやりたいんだろうな。
「ふ~む、売り子もいいんだけどさ」
「ウン」
「アムは強いのか?」
「戦い? ふつーだよ」
悪魔の普通がわからん。
「スライムとかゴブリンとかは倒せる?」
「――は?」
「オークとか、その、え~っと」
アムはなんかプンプンしてる。
いや、怒らせるようなことは言っていないんだが……。僕は困ってしまった。
「え、冗談でしょ? からかってるんでしょ?」
「いや……僕はオーク倒せないよ、スライムでも苦戦する」
アムは顔が引きつった。ははは、アムはわかりやすいな~。
「ま、マジ?」
「マジ」
切ない沈黙。
「な、なんかゴメンね」
「いや、いいんだ」
ギャルに気を使われてしまった。
ギャルと関わったことないから新鮮だな~ははは。泣けるね~。
「え~、えっと、そだ! だったら~今からダンジョン行く?」
「え、今から? ん~」
お店は臨時休業にしてある。今から開けてもランチには間に合わない。そもそも食材が無い。
たしかにダンジョンはありだな。
「行くか!」
「りょー!」
コーヒーを飲みほして、準備のために店に戻ることにした。
**
「本当に武器いらないんだね?」
「いらなーい」
アムは何も持たずに出発すると言い出した。ベルトの収納部分には飴玉を入れている。
僕は念入りに装備を整えた。短剣2本、緊急用の医療グッズに、水と携帯食料。
あとはモンスター捕獲用のアイテムを数点。
「旅に行くみたーい、ウケル~」
「う、うるさいな」
「はやくいこ~」
街の北にある、一番難易度の低いダンジョンに向かった。
****
―ダンジョン―
異世界の風物詩ともいえる多段階構造の魔物の巣窟。
密閉空間に瘴気が集まると瘴気が結晶化する。結晶化した瘴気は爆発的に瘴気をまき散らすようになる。
大量の瘴気はモンスターを産み出し、周辺の環境を変質化させ、そしてダンジョンが生成される。
****
道中。
「ダンジョン楽しみー! 全クリしちゃうよー!」
「だめだよ、4階までしか行っちゃダメなんだから」
「えええ! なんでー!」
「ダンジョンは、特別な許可がない限り、指定階層を超えちゃだめなんだよ。
踏破なんてしちゃったら、ダンジョン無くなっちゃうだろ」
「無くなったほうがいいぢゃん!?」
僕も最初聞いた時は同じような事を思ったな。
だけど、この世界のダンジョンに関しての常識は違った。
「ちがうんだな~これが。ダンジョンの規模にもよるけど、踏破して瘴気を晴らすことは結構簡単らしい」
「ほほぅ~」
ダンジョンと言えば難攻不落ってイメージだけど、この世界のダンジョンはピンキリだ。
踏破が難しいダンジョンもあるらしいが、念入りに対策をすればどうにかなるみたい。
「【隠密】スキル持ちでチーム組めば、モンスター無視して最深部に行けたりするらしいし」
「ふ~ん」
「基本的にダンジョンは守るようにしているんだ。
あまりに街に近いと潰しちゃうけど、ダンジョンはレアなモンスターが湧きやすいしね」
「狩場にしてるのね~、趣味ワル~」
「はは、ま、そういうこと。北のダンジョンは敵が弱い割に広い洞窟だからね。狩場にはもってこいなのさ」
ダンジョンも利用し共存する。人間ってのは罪深い生き物だよ。なんちゃって。
**
北のダンジョン近くは森になっている。
「懐かしいな~」
「へー、来たことあるんだ」
「この辺ではぐれスライムに殺されかけた……」
「は、はやくダンジョンいこ☆」
哀しみを背負って男は強くなるのだよ。強くなってないけどさ。
****
―北のダンジョン―
ソロモンシティ北部に位置する初級冒険者向きダンジョン。
全10階層で一般開放は4階まで。
洞窟タイプのダンジョンであり、緩やかに降下してしていく。
主に登場するモンスター:スライム ゴブリン リザードマン オーク
****
「ろ、ろくな敵出ないじゃん!」
アムに北のダンジョンを説明したら、プリプリ怒り出した。
「そうかな~、ベタな敵しかでないけど、オークなんてムキムキで怖いよ」
「あんな筋肉マン、ピョイよ」
「ピョイですか」
「ピョイピョ~イ」
『ピョイ』が何かわからなかったけど、さっそくダンジョンに入ることにした。
**
北のダンジョン1F。
「な、なにこれ」
アムは唖然としている。まあそりゃそうか。
北のダンジョン1Fは半分街みたいになっている。
入り口では入場料を取る人がいて、ダンジョンの中には売店や、鍛冶屋がある。
街灯もあるので、洞窟なのに明るい。
「こんなの、ダンジョンじゃない!」
「はは、まあ初心者向けだからねえ」
「お、おでん売ってるよ!?」
「へ~、美味しそうだね。食べてく?」
「むむ……食べるけどぉ」
ダンジョンの中でたべるおでんも中々いい。アムも不満そうだけど美味しそうに食べてる。
「そろそろ行こうか」
「あ~い」
人生初、ダンジョンを進む! アム任せだけどね。
ワクワクが止まらないぜ! 古いぜ!
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