第7話 幕間
「今年のクリスマスライブ、マジで最悪だったな」
「ホントだよ。一番、盛り上がってた時にアレはねぇよ。喧嘩かなんか知んないけどさ。取っ組み合いの大騒ぎで、最後にはさっむい中、ハコ追い出されるとか」
「なんでも、あのアコギ?――の女ボーカルのせいらしいぜ」
「ああ、あの空気読めない弾き語りか。クリスマスにわざわざライブ行ってんのにしんみりしたくないつうの」
「それは単にお前に彼女がいないからだろ」
「うっせぇな。そういうお前はどうなんだよ」
「俺はちゃんとライブ終わった後で合流する予定の子がいたから」
「じゃあ、なんで俺といるんだよ」
「いや……なんかさ、その子、問題起こした奴らの知り合いっていうか、まぁ近縁らしくてさ。一緒にスタッフに軟禁されて――」
「まっ、残念でしたね。今回も」
「今回もって、言うのやめろ」
「まぁまぁ、お互い不幸が重なったってことで、仲良くやろうぜ」
「あーホントうざいな、お前。だから彼女できねぇんだよ――ったく、まぁ、でも今回に関してはホントに運が悪かったよ。他にイベントやってたとこは腐るほど、あったってのに」
「そうだな。せめてあの女が出る前に抜け出しとけばよかったぜ。しかも、一曲パクリなんだって?――確か、あの新しくできたっていうバンドの」
「二曲目もそうだぜ。そっちは結構、古株んとこ――あのイケメンボーカルの」
「めっちゃキレてたぜ、その一曲目のとこのベースの子。ステージに上がって取っ組み合ってたじゃん」
「あれ、元バンドメンバーらしい」
「ええっ、マジ?」
「マジ、マジ。お前知らないの?――結構、常連のスリーピースだぜ、アイツ等」
「えっ、あそこ?――嘘、顔わかんなかったわ。いつの間に解散したの、結構好きだったのに」
「いや、俺も聞いてないよ。でも、ベースが他バン組んで、ボーカルが一人でエントリーって……つまり、そういうことだろ?」
「はーマジかぁ。ショックだわぁ。ボーカルの子の声、好きだったのに」
「なんだよ、さっきは空気読めないとか、叩いてたくせに」
「それはそれ、これはこれ」
「まぁ、ボーカルで持ってるって言われてたし。そのうちには、ねぇ」
「じゃあ、結局――こじれて歌えなくなった逆恨みにわざわざ一人でアコギ担いでお礼参りってか?――見かけによらず、えげつねぇな」
「まぁ、そういうこともあるわな――音楽性の違いってやつだ」
「あ、でた、音楽性の違い」
「ははは、なんだろな音楽性って、造語みたいなもんだろ」
「気取ってるだけなんだろ、どうせ」
「だな」
「……なぁ」
「ん?――どした」
「三曲目って、聞いたことあったか?」
「三曲目?――なんの?」
「だから、その女ボーカルだって」
「ああ――知らね。どうせ、それだってどっかのパクリだろ。それか、自分とこの曲だろ」
「いや、そっか……」
「あ、どうしたよ」
「いや、三曲目まですごい揉めてたじゃん、元バン?――の女が、歌うの止めろ、って。スタッフやバイトも必死にステージ上がってる奴らを下ろそうとしてさ……」
「ああ、凄かったな。チューナーとか手当たり次第にモノ投げまくって……。まぁ、自分等の歌がパクられれば怒るわな、そりゃ」
「頭から血も出てたしな、それで顔も見えなかったし――ってそれはいいんだよ。曲だよ、曲。三曲目!」
「やけにこだわるな。お前、そんなに入れ込んでたのか」
「だから、そうだって言ってるだろ。音源だって、買ってたって」
「珍しいな、お前みたいなズボラが」
「だろ?――だから、気になるんだよ、あの三曲目が……たしか、なんだっけ、スィート、なんちゃら?」
「そこまで、出てきて、思い出せないのか……。で、そのスィート、なんちゃらがどうしてそんなに気になるんだ?」
「いや、だってあの時だけ、奴ら全然、雰囲気が違ったじゃんか。まぁ、追い出される寸前でチラッとしか見てないけど」
「まぁ、確かにそうだな。あんなに騒がしかったのに、最後の方はそうでもなかったし――それで?」
「いや、そんだけ」
「はあ、そんだけ?」
「なんだよ、文句あんのか」
「いや、もういいよ。お前から、なんか深い話が出てくるかと思った俺が馬鹿だった」
「なんだよ、その言い方」
「事実だろ」
「ちげえよ。でも俺、正直あの歌は好きだぜ。願わくば三人で弾いたのが聞きたかったよ」
「それな」
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