2. 国際機密機構捜査一課

部屋の中はシンプルだった。

執務室を居抜いて使ってるような、大きな机と高そうな椅子がある。

白い壁と柄の入った緑色の大きな絨毯

茶褐色の横長ソファーの前にテーブルがあり

そこには猫背の男がノートパソコンを覗き込んで座っている。



「て、転送装置データベース、潜入しました…!」



猫背の男は画面を見たまま、絞り出したような声で言った。

前髪が長く伸びていて表情がよく分からないが、

口角が上がったように見える。



「よし、スコイはそのまま平行してこの会社の事業展開を洗い出してくれ。

オオツカ、皆に説明を。」



「はい、ではこちらをご覧ください。

この転送装置は“細粒子化”と“転送”を、

それぞれ独立したプログラムで同時稼動させています。

“細粒子化”は大かたあのオヤジの説明通り。

ここで言う『分解』とは体細胞を “点” と仮定した場合

『線で連なった人体を解くこと』を指すので視覚的には“分離”に近いでしょう。

ザックリと分解したら真空圧縮をかけて“細粒子化”の完成です。

“転送”はその粒子に磁気を纏わせて受信カプセルに送ること…

まあ電子メールみたいなものですね。」




机に寄りかかった端正な顔立ちの男は、

腕を組んだまま2人に指示を出す。

色白のスコイはまたパソコン画面にかじりついた。

もう1人、映像を壁に表示させ説明を始めたオオツカ。

オールバックでおさげ髪の男。

ベージュのジャケットを羽織っていて、

鼻の下の髭がキレイに整っている。




「(受信カプセルに)着いたら、順を追って元通りってわけ?」


「そういうことです。」



「オイオイ、理屈は分かるが

人間ってのは血やアブラが巡回してる液体物質なんだぜ?

それを分解して圧縮して丸々転送って、

どっかのSF漫画でも読み過ぎたんじゃねーか?」


「転送後の再構築(復元)率100%から逆算して設計したような、

ムダのないシステムですからね。

こんなのイキナリやってみようで出来る代物じゃないですよ。」



「…誰かが“噛んでる”ってのか。」


「それにしてもこの“転送装置”、(法的に)隙がありすぎるんだけど…

そんなに作るの簡単なのかしら。」


「プログラムなんて一個ありゃ無限に複製出来んだろ。

最初の一個さえ出来てりゃいいんだ。」


「そ、その話、厳密には違います…。」


「細かい事は気にするなスコイ。

理解するには感覚的な“言い方”も大事なんだよ。」






「…スコイ、データは出たか?」


「あ、はい…壁に飛ばします…。」



――パッ




最初に疑問を投げかけたのは女性だった。

映像の壁の左隣で聞いていて、腕を組みながら眉を歪めて言葉を投げかける。

次に大柄の男が話した。

ソファーの背もたれに腰かけて左足を乗せている。

話す時、手も動いてしまうようだ(無意識なんだろうけど)。


一瞬の沈黙の後、指示されたスコイは

ナノ・バイオエレクトリック社(以後N社と表記)の事業展開図を

モニターに表示させた。




「分解技術はN社の前にバイオロジーアカデミーで既に研究してたのか。」


「エレクトロニクスカンパニーと言えば通信事業よね。

私の友達がネット回線契約を結んでいるもの。」


「“銀河鉄道”って名目があれば自然でも、

買収当時はみんな不自然に思っただろう。

生物学と通信事業ってピンと来ないから…。」


「おっ、ライルもちょっとは分かってきたじゃねーの。

どうだ、現場の空気はウマいか?」


「や、やめてくれよ…僕は、ただ…。」


「そろそろ時間か。

スコイ、“足跡”を消して戻ってきたら、次はWHO幹部役員の素性を探ってくれ。」


「り、了解です…。」



「これから30分後に国連絡みの会食がある。

イザミはオオツカとチュウジョウ議員の護衛に。

ジャッドは俺とイチカワ議長に付く。

ライルはここで待機、以上!」


「了解。」

「了解です。」

「りょーかい。」

「…分かりました。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る