6月 7日 作戦参謀始動:加美洋子「先輩達も同じ事をやって下さい」
古城ミフユ
7日の放課後、みんなで『事務所』に籠もって政見放送の原稿調整と読み上げの練習を行った。運動開始日初日最大のイベント。8日の昼休みに放送室で録音(吉良陣営は放課後に録ると聞いた)、9日昼休みに放送される事になっていた。
選挙運動解禁日は明日8日から。加美さんからは選挙戦術について提案があった。
「私は1年生全クラス回って先輩の公約について支持するかどうかヒヤリングして回ります。始業前と昼休みに教室を回って話をすればいいんです。そうすればある程度票読みは出来ますし、しないと選挙戦後半での戦術調整も出来ないです。先輩達も2年生の全クラスでも同じ事をやって下さい」
私達は顔を見合わせた。陽子ちゃんが口火を切った。
「2年生のクラス、私達自身のクラスはいいとして他をどうするかよね」
「選挙なんてうぜえって奴もいるだろうしね」とは肇くん。
「あー。そうですよね。私は同学年だと変な事を聞いて回る奴っていう評判を予め作っていて聞いたら素直に答えてくれるように関係は作ってますから。同じ事は無理ですよね」
『無理』
思わず三人でハモってしまった。
「じゃあ至急2年C、D組の友達で手伝ってくれる人を引き込んで下さい。その人を介して聞いてもらうんです。そうすれば各クラス40人ぐらいの情報は1人で取れますから。これは陽子先輩、日向先輩で明日7日中には対応お願いします」
頷く2人。
「私もやれるよ?」と加美さんに言ったんだけど逆に怒られた。
「古城先輩にそんな余裕はないと思います。まずは政見放送に神経集中して練習して下さい。明日の録音、お昼休みなんですよ」
流石は日向くんの見込んだ選挙参謀だった。1年生なのに上級生に遠慮がない。
大村敦
立候補受付最終日。選挙管理委員会は不思議と落ち着いた空気だった。既に水面下では両陣営が動いていて、他にその種の動きはなかったのだ。古城さんvs.吉良さんという女子対決で確定という空気だった。
会議室にある時計が19時前を指した時、両陣営から一人ずつ偵察要員がやって来て空気が少しピリピリした。駆け込み立候補者がいないか確認に来たのだ。
吉良陣営からは松平さん、古城陣営からは加美さん。どちらも相手の顔を覚えておこうという眼で見ているのが分かる。
そして会議室の壁にある時計が19時となった。
「さて、選挙管理委員は片付けして下さい。松平さん、加美さん明日からは選挙戦頑張ってね」
松平さんは「先輩と文化祭を組めるのを楽しみに頑張ります!」と言い、
加美さんはじっと鋭い目つきで俺の方を見るとお辞儀をして帰っていった。
残っていた1年生の選挙管理委員の男子が言った。
「大村さん、加美はああいう奴なのであまり気にしないで下さい。いつもあんな感じですがあんまり敵はいないですねえ」
いや、それはあの目つきで敵に回したいと思わないからだけじゃないか、とは思ったが口にするのは止めておいた。
宮本丈治
立候補者は結局古城と吉良の2人で決まったと帰る前に鍵を戻しに来た大村から聞いた。打てる手は打った。教頭先生も結局新味のある手は思いつかないようで状況報告の時、しきりに何とかならないのかという繰り言になってきた。実際のところ公約で水野を通じて仕込んだある作戦以上のことは思いつかない。
いや、そうでもないか。ない事もないな。これを切り出すかは少し様子を見ようと考えながら席を立った。
「お帰りですか?」
岡本先生だった。
「ええ。今日はこれで終わりにします。松平と古城は大丈夫ですか?」
片や立候補者で、片や委員長で対立候補の推薦人だ。クラスの空気はさぞピリピリしてるだろう。
「表立ってはまだ二人とも選挙の話はしてないので平穏ですが、明日からはそうも行かないでしょうね」
「岡本先生も大変ですな」
「2人とも良い子ですから遺恨の残るような事さえなければ良いなと」
「確かにそうですな。……じゃあ、お先に失礼します。お疲れ様でした」
そう言って職員室を出た。遺恨か。残るような決着になるとしても生活指導としては勝たなければと思っているとは流石に言えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます