長編)第二次制服戦争(Ver.1) 高校2年生のミフユと高校1年生選挙参謀の加美さん
早藤 祐
第1章 告示日前のあれこれ
3月24日 終業式:ミフユ「これってなんとかならないのかな」
古城ミフユ
高校1年生の最後の終業式を終えて自転車を走らせて家に帰った。春の陽気で暑いぐらいだったけど、さすがにブレザーの上着をしわになるような事はしたくないので我慢して着たまま坂道を上って家に向かっていた。
風が少し吹いていてこういう時だとスカートでは自転車を走らせにくいのがどうにも自転車通学の難点。
髪の毛は最近ポニーテイルでまとめている。秋に買った自転車で通学もするようになって髪の毛がうっとおしい事が多かったからだ。動きやすくてさほど手間もないので私も気に入っている。陽子ちゃんからは三つ編みとか試せばいいのにって言われているけど、そこまで時間を掛けたいとか思えないのよね。
渡された通知表の成績はまずまず悪くはなかったので安心して両親に見せられるかな。よほど悪くなきゃ何も言われることはないんだけど私自身がいやだから。そこが大事。
帰宅後、とってもお腹が空いていたので2階の部屋に上がって荷物を置くと着替えずに制服のまま1階に降りて昼食を作った。妹と私だけかなと思ってゆで卵を茹でつつスライスチーズをのせたパンをトーストして野菜を適当にのせるオープンサンドを用意していたら母が家の書斎で仕事をしていたらしく部屋から出てきた。
「あら、お帰り」
「お母さん、いたんだ。お昼作ってるけど食べる?」
「あ、それは助かる。ありがと。ミフユ」
という事で母と一緒にお昼を食べた。
妹のミアキも終業式で午前中だけのはずなのにこのときはまだ帰ってきてなかったので、あの子の分もすぐ作れるように材料だけよけておいた。どこで遊んでるんだか悪ガキ大将にも困ったもの。きっとクラスメイト引き連れて4月からクラスどうなるんだろうねとかいいながらふざけあってるんだろうね。
食後に母謹製のコーヒーを飲んでいて、ふとスカートをつまみながら愚痴めいた事を漏らしてしまった
「これってなんとかならないのかな」
私の通っている県立中央高は自由な伝統とその伝統ゆえの保守性が入り交じった所があった。私が不満を感じているのは制服。80年代の生徒自治会が動いて旧来の詰め襟服とセーラー服から男女ともブレザーとなったのだ。但し女子はスカートだけとなっていた。私はこれが不満だった。自転車にも乗りにくいし冬は寒いし。
大学で史学の教員をやっている母の反応は穏やかだった。
「誰かが声を上げて変えようとしない限り当然変らないわよ」
「そりゃそうだけど」
「今のブレザーだって変えようとして動いた生徒がいたからそうなったんでしょ?」
「うん」
「なら、ミフユが立ち上がるしかないんじゃない。そうすれば制服を変える提案をして、学校側、生徒の保護者、生徒自身で考える事は出来るよね。それをやるにはミフユの学校の生徒会って生徒自治会って言うのだったっけ?そこのトップになって交渉するのが早道かな」
「なるほど。そういえば、うちの生徒自治会長って任期が変なのよね」
「どう変なの?」
「選挙は6月15日前後らしいんだけど、就任は11月の文化祭終了時からの1年間。当選後、11月文化祭で引き継ぐまでは筆頭副会長として文化祭以外の仕事を引き継いで担当するとか去年の選挙の時に説明を受けた」
「ふーん。それじゃあ生徒自治会長は実質任期1年半ぐらいあって、そのうち3年生の6月から11月までは大統領・内閣総理大臣型の外政、内政を分けた統治モデルを取るのね。高校にしては珍しいことやってるね」
「でしょ。なんでこんなややこしい事やってるんだか」
母はコーヒーカップを机の上に置いた。
「ミフユ。家のことはいろいろやってくれていて感謝しているけど、もし学校が忙しくなる場合は私にしろお父さんにしろもっとやれるからね。気にしないこと。あなただっていつまでもこの家にいる気はないでしょ?」
「うーん。進学先次第では家を離れる事になる」
「でしょ。いずれ私達とミアキでこの家の事は回すんだからさ。あなたがいるうちに少しずつ慣れていったほうがいいのよ。だからミフユが気にする必要はないわ。で、学校のことはあなた、いい友達いるんだからまず一度相談して見た方がいいんじゃない?」
「うん。陽子ちゃんと肇くんに一度話をしてみる」
母は結構突拍子もないことを言ってくれる。まさか生徒自治会長目指して変えたらいいんだよなんて言われるとは想定外だったけど、母が言うことはとても正しい方向性だと思った。これがきっかけだった。
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