第4話 夕焼けの色

帰り道、河沿いの細い道は人も疎らで、時折ジョギングしている年配者とすれ違うくらいだ。

対岸の連なった大きな木の枝の隙間から、橙色の夕陽が漏れている。その枝葉の隙間が、丁度古びた洋館の格子の入った窓のようで、漏れている夕陽の光も、さながら白熱電球の暖かな色にも似て、僕をノルスタジックな気持ちにさせる。

あの窓の中に揺り椅子に腰掛けた老婆が、1人編み物でもしていて、暖炉には薪が爆ぜ、小さな破裂音をさせているのではなかろうか?

足元の大きな老犬は、気にもせず寝ているようで、薪がパチンと言う度に耳をピクリとさせ、きちんと警戒しているのではなかろうか?

そんな妄想をしながら暫く歩き、振り返ると見る角度が変わったせいで、先程の窓は消えていて、牙の並ぶ魔物の口様になっていた。更に傾いた太陽が投げる真っ赤な光が、魔物の恐ろしさを際立たせている。

小さい子なら、泣いてしまうかもしれない。

あぁ、先程の優しげな窓は罠だったんだ。

旅人は安らぎを求めてフラフラとあの窓に惹き寄せられ、ガブリ!と、言う訳だ。

ふふふ…

(夕陽が赤くなる理由を知っている?単純に言うと、赤い光が遠くまで届くからなんだ。真上から来る昼間と斜めから差し込む朝夕の太陽光じゃ、大気を横切る距離が違うだろう?だから、赤く見えるんだ。僕達が昼間活動すると、排ガスとかで、空気が汚れるだろう?そうすると、赤以外の色はその汚れ達にぶつかって、更に届き難くなる。で、赤だけが僕らの目に届くんだ。朝焼けがあまり赤く見えないのは、大気の不純物が少ないからなんだよ。)


海にほど近い河口は、潮が満ちきったのか、流れが止まっているように見える。

時の止まった川面では、あちらこちらで真円の輪が出来ては消えていく。

おそらくは魚か虫が水中から突いているのだろうが、ココからではわからない。

大きな見えざる手が気まぐれに水面を突付いているようだ。

何かを探すように、あちらこちらを突付き、結局何も出て来ない。

まるで、僕の可能性のようじゃないか!、

探しても探しても、見つからない。

僕は、どうしようもない不安と戦いながら、儚い真円を眺めていた。

刹那

魚か跳ねた。

大きな、川魚にしては大きな魚。

突然見えざる手に突付かれて驚いたように、目一杯跳ねた。

挑むように先細の尾が、力強く躍動した。

僕の可能性が跳ねた!跳ねて、そして、そして…水中にドボンと戻り、それっきり出て来なかった。


僕の…


そうか、明日から11月か。

また来月、会えたらココで会おう。

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