第3話 ドングリ。
雨が降っていた。
朝から重苦しい色の憮然とした空に、これまた重苦しい色の雲が垂れ込めている。
今日は夜まで雨だ。
雨の日は、不安がやってくる。この先、どうなるのかなどと、どうしようもない不安が、
市営バスのキセノンのヘッドライトに、突然浮かび上がる雨粒のように、しとしと、しとしと、僕の心を蝕んで行く。
僕は、何を依代に生きていけば良いのだろう?僕の存在全てが、無価値な気がして、何も考えられなくなる。思考停止。
出勤途中に神社がある。市内の真ん中でなお、境内には沢山の木が植わっていて、中に見上げる程大きなアラカシの木があるのだが、この頃になると、丸くて可愛らしいドングリが吾も我もと鈴なりになっている。(ドングリには丸いのとか細長いのとか、種類が有るって知ってる?どれも、ナラやシイなど、ブナ科の木に成る実なんだけれど、丸いドングリはブナ、アラカシ、クヌギ、カシワなど、細長いのは、コナラ、マテバシイ、シラカシなどなんだ。どちらも小動物の冬支度の栄養源として、重宝されているね。こんな
街なかにも、栗鼠とかいるのかな?見た事ないけれど。縄文時代には、ドングリクッキーなる物が食べられていたらしいよ!?以前、体験会で作って食べたんだけれども、あまり美味しくはなかった。残念。丸か細長か、笠の部分が横縞か、ウロコ状か、フサフサかで、だいたいの把握が出来るから、笠も見てみてね。)
ふと、道路際を見ると、僕の背丈程もないドングリの木が、ビッシリと青い実を付けている。大木に気を取られて気が付かなかった。
あぁ、こんなに小さな木の小さな実の一つ一つ全てに、あの大木になり得る可能性が有るのか!!
なんと、素晴らしい、なんと不確かな、そして、なんと緻密な命の繋がりか!!
この実が全てそうあるように、僕にも、全ての子らにも同じだけのポテンシャルが存在する。
僕の存在価値、僕の存在価値。
そして、この実が全てそうあるように、他の命の糧になり得る悲劇が存在する。
大木と糧、どちらか幸せなのかは、ドングリにしかわからない。わからない。
僕はどちらになるのだろう?よしんば目を出せたとして、ほんの少し成長して枯れてしまうのかもしれない。
その時、僕は幸せだろうか?だろうか?
僕はフフフと小さく笑った。
いや、僕は笑ったつもりだったが、実際には口端が不器用に引き攣れていただけだったろう。
すれ違う人が、やや怪訝そうにちらりとコチラを見た。…そんな気がした。
雨はまだ降っていた。
また土曜日がやってくる。
もし、また会えたら、ココで会おう。
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