第伍話
「正義活動って言っても私たちは飽くまで、この
才能で片付けられる異能。
走るのが速いとか、そんなものまでアンノウンに分類されているのだろうか? きっとそうだろう。
ここで言うアンノウンは『異能かどうかもあやふや』と言う意味だろうし、実際その大半は異能ですらないのかも知れない。
少なくとも僕の体質はフィクション寄りのアンノウンだ。
「何処からフィクションで、何処までがアンノウンなの?」
「アメコミみたいに大々的に持ち上げられる素質があればフィクション、って私は考えてる」
「分かりやすいな……」
「アフリカの国境みたいでしょ」
……それはあまりいい例えではない。
「私の説明が悪かったかも知れないけど、そもそもフィクションは異能に限った話じゃあないんだよ。魔法や幻獣、果てにはパラレルワールドとかタイムスリップとか、もう何でもあり」
「それが実在するの……」
「するよ」
自分の今まで見てきた現実が信じられなくなるほどの事実を目の前にしても、僕は実のところ大して驚いてもいなかった。
僕の知らないことは全部嘘、なんて言うほど傲慢でもない。
むしろ僕が知ったところで嘘は嘘だし本当は本当、何なら僕が知ってるものも虚像だって言われたほうがしっくり来る。
「けど基本的に強すぎる異能を持ってる人って、現実を脅かすほど大々的に動こうとしないものだよ」
「ふうん……僕の能力が持って強かったら、スーパーヒーローにでもなったかな」
思わずそんな戯れ言を口にする。
「スーパーヒーローにでもヴィランにでも、何不自由なくなれる人間はいっぱいいっぱい見てきた。けどニュースで彼らを見たことはない」
「まぁ……ここは現実だからね、表舞台で戦っても良いことないって事か?」
「そんなとこ」
質問も自然と終わりを迎えて、僕達は無言の中車に揺られた。
そういえば運転手はどんな人なのだろうか、運転席に向かうためにはドアを開けなければならない造りになっていて、わざわざ見る気にもならないが。
推察すればこの世界治安なんとか……アンチフィクションで働く人間なのだろうが、そんな人間がキャンピングカーを運転していると言うのは少し面白くすらある。
このキャンピングカーは誰の趣味なのだろう。
案外と、運転手さんの趣味だったりするのだろうか?
それにしても、割と長い時間車に乗っている気がする。車酔いはしない方なので寝っ転がっていられるキャンピングカーは楽だが、行き先不明のまま何十分何時間ど移動するのはゴメンだ。
まぁ行き先を聞けば教えてくれると思うが。
ここまで来て聞くのも、なんだか違う気がする。
「ん、あと少しで着くよ」
そうこう言っている(思っている)間にも、僕達の乗るキャンピングカーは目的地に着いたらしく、窓の外の景色は駐車場のような場所だった。
駐車場、と言っても普通の駐車場じゃなく立体駐車場、どうやらショッピングモールのようだった。
「えっと……佐多さん、どうしてショッピングモールに来たの? 買い物?」
「何か買いたいものがあったらチームの経費で落とせるから買ってもいいよ、生活用品ほとんど置いてきちゃったし」
「僕は特に無いんだけど……」
「そう? じゃあ先に拠点に向かおっか」
「え? 拠点って」
戸惑いを隠せずに聞く僕に佐多さんは地面を指差して、
「ここの地下、秘密基地みたいでカッコイイっしょ」
と笑った。
♢
「つまるところ、あんたの役割は運転手じゃあないんだな?」
「えぇ、この『名付け親』の仕事は、その名の通り名付けること……普段は箱陽様の奴隷みたいなものです」
車から降りることでようやく邂逅を果たした運転手、頑なに名乗りはしないマスクのイケメンは『名付け親』と名乗った。
「そういう言い方すると私のイメージが崩れるじゃん。『名付け親』は裏方担当、何でも言う事聞くから便利でイイやつ」
「雑用係とも言います」
「これでもナンバー2なんだよ」
「まあ箱陽様如きが仕切ってるチームですからねぇ……」
見方を変えれば兄妹にも、お嬢様と執事にも見える二人のチーム。
聞いた説明によればこの『アンチフィクション』は複数のチームに分かれて活動をしているらしく、このショッピングモールの地下にあるのは飽くまでも『アンチフィクションの本部』であって、チームによっては他の場所に拠点を設けたりもしているらしい。
うちのチームは本部を拠点にしている。
リーダーが佐多箱陽で、ナンバー2が『名付け親』。
二人の能力も知らないのだが、中々癖のあるチームな気がしてならない。
「拠点って事はやっぱり他のメンバーとかもいたりするの?」
「多分みんな出かけてるかなー……あ! 運が良ければ一人居るかも」
「ふうん……出かけてるのは仕事で?」
「いや、暇つぶし」
もしかすると、予想より酷いメンバーなのかもしれない。
アンチフィクション・ヒロイズム 自由帳 @RakugakiLAB
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