第38話

「…………………………………」

 次、同じようなことが起こったならば、千鶴はもう……。

 今日あんなに笑ってたのに、その笑顔がもう二度と見れなくなると。想像ができないけれど、いや、想像できないから、底なし沼のような恐怖感が俺を突く。

 ダメだ、さっきから悪い考えしかできていない。

 この世からいなくなる。

 ————やめろ。

 声を聴くことができなくなる。

 ————違う!

 一生動かなくなる。

 ————そんなわけない!!

 千鶴は、死ぬ。

 ————黙れ!!!

 千鶴に残された時間は残り僅か。

 まだ、やりたいことはたくさんあるのに。 

 まだ、伝えていないことがたくさんあるのに。

 考えろ。考えろ。考えろ!

 俺は、人が永遠に生きれるような方法を、どんな病気も必ず治る薬を、どうにもならないようなどうしようもないことを、周りが見えなくなるくらいに、夢中になって考えた。必死になって考えた。

 

 まず、目を覆わせるような眩しい光が俺を襲い、次に耳をふせがせるようなうるさい音が襲い、最後に何も感じさせなくなるくらいの衝撃が、俺を襲う。

 その時、俺は考え事に集中していて気付いていなかった。そこがであることを。

 空と地面を交互に見せられながら、固いアスファルトに打ち付けられた。

 声は出なかった。何が起こったのか、当人はわかっていなかったからだ。

 頭部から冷たい何かが顔の凹凸に沿って滴る。

 混乱して何が起こったのかを知りたいが、今はそれをする時間さえ惜しい。

 とりあえず帰宅せねば————

 

「あ……れ……?」

 

 ————起き上がれない。正確には、起き上がるために突いた腕が、全く機能しないのだ。

「なん……だよ……」

 見れば、その腕は普段曲がらない方向に曲がっている。

「大丈夫か、君!?」

 誰かの声が聞こえる……。

「きゅ、きゅうきゅs———呼ぶかr——!」

 うまく聴き取れなくなってきた。視界もくすんで……。

 まだ……まだ……だめだ……。

 まだ、ちずるをたすけるためのほうほうをおもいついていな——い―—…

 目の前が突然真っ暗になり、俺の意識はそこで途絶えた。

 

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