第36話

 昼食を済ませた俺たちは、飾りつけがされた宮下の部屋へと移動する。

「これからの予定とかは決めてあるのか?」

 俺は千鶴に聞こえない程度の声で、宮下に訊いた。

「そうですね……」

 宮下は顎に指を添えて思案顔になり、

「特にありません」

 なんと表情ころっと変えて答えたのだ。

 おもわず、ずっこけそうになった。

「と、特にないって……どうするんだよ?」

「そうですね……。別に、どうもしなくても、いいんじゃないですか」

「……?それってどういう意味なんだよ?」

 俺が頭に疑問符を浮かべていると、宮下は千鶴や智をちらりと一回見て、それから 俺のほうに向き直り、答えた。

「彼女らの好きなようにしてもらえばいいんじゃないですか?だって、そういうのがパーティーってものなんでしょう?」

 宮下の言うことは、間違っているのかもしれない。パーティーってのは、司会者とか計画、進行を勤める人がいるはずだ。

 でも、宮下がいったようなパーティーも、案外悪くないのかもしれないな。

「……確かにな!」

 俺はさっきまでの表情とは一変、にかっと笑って宮下の意見を肯定した。


 宮下の部屋に行ったら、とりあえず智や千鶴になにがしたいかを訊いてみた。

「「うーん……」」

 二人とも、声を揃えて悩むと、智はなんでもいい、千鶴はすごろくと答えた。

 俺はこの結果を宮下に伝える。

「すごろくですか……。確か、幼い頃、父が私に買ってくれたものがあったはずですが……」

 宮下は目を伏せて記憶をたどっている。

 そのあと、そっと瞼をあげると、自信に満ちた瞳を輝かせて、

「はい!あります、すごろく!とってくるので、待っていてください!」

と言って、猛スピードで部屋を飛び出した。


 しばらくして、宮下がほこりかぶった長方形の箱を持ってきた。

「ありました。だいぶ古いですが……」

 彼女は手に持ったその箱をみんなに見せる。

 箱の表面には、『じんせいすごろく』と喜怒哀楽を表情に浮かべた家族が描かれていた。

「「懐かしい!」」

 俺と、もう一人————千鶴が感慨深く呟いた。

「「え?」」

 再度二人の反応が被る。

 しかし、なぜ千鶴が「懐かしい」と呟いたのかがわからない。だって、宮下が持ってきたじんせいすごろくは、シリーズの中でもだいぶ初期のやつ。確か、俺と千鶴がまだ五、六歳くらいの時、俺がお父さんにじんせいすごろくを買ってもらって、一緒に遊んだ記憶があるが……。

 記憶を失った千鶴はそんなことを覚えているはずがない。

 ふと千鶴のほうを見ると、彼女も困惑していた。

「あれ、私、なんで懐かしいなんて呟いたんだろう」 

「こ、心当たりがあるから、懐かしいって呟いたんじゃないのか?」 

「それが……心当たりが全くない……」

「……どういう————」

「————あーもうっ!病院で遊んだのがこれだったのではないですか!?それより、早く遊びましょう!うずうずします!」

 さっきまで静かだった宮下が、突然、叫びだした。

「そうだね。せっかくのクリスマスパーティーなんだから、わけのわからないことは置いといて、今はみんなで遊ぼうよ」

 と、智まで宮下に加わる。

「そう……だね……。ごめんね、みんな。さあ、遊ぼう!」

 千鶴は、気を取り直し——たように取り繕っ―—て、笑った。

 俺は、そんな彼女の、普段とは真逆の表情を見て、沈む気持ちになるのだった。

 

 

 

 

 










  

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