第33話
「—————ということがあってさ」
その週の日曜日、俺は朝から千鶴のいる病室に訪れて、ファミレス会議で話し合ったクリスマスパーティーのこと(サンタさんのことは省いて)話した。
「へー、楽しそうだね!」
ベッドの上……からではなく、車いすからリアクションをする千鶴。
最近、千鶴は車いすでいることが多い。医者からのリハビリで車いすに乗るようになったらしいが、千鶴からしてみれば、病室の外はすべてが『初めて』で、リハビリの時間以外にも車いすに乗っているのだとか。その証拠に、ベッドの近くには常に車いすが置かれている。
こうしてみると、なんだか記憶を失う前の千鶴みたいだ。
…………で、なぜ俺が千鶴のもとにいるかというと、今回パーティーが行われる場所は、宮下の家なのだ(ここではほかの病室の人に迷惑が掛かるため)。
それで、千鶴に病院を出ていいかを聞きに来たのだ。
「うーん……、先生に聞かない限りはわからないんだけど、たぶん大丈夫だと思うよ。車いすでこれだけ動き回れるんだったら、もう入院も必要ないんじゃないかなって、この前先生が言ってたし」
「ほんとに!?」
「!」
思わず顔をがばっと近づけてしまった。千鶴の顔が目と鼻の先に来る。
彼女はコクコクと素早く首を縦に振っているが、動揺しているのが隠しきれてない。目を丸くしている。
ほのかにいい香りが、などと悠長なことをやる暇もなくお互いに顔をそらした。
興奮すると周りが見えなくなってしまう。俺の悪い癖だ。
「ごめん……」
「う、ううん!全然だいじょうぶだよっ」
「それならいいけど……」
「…………」
「…………」
気まずさで沈黙してしまう。こうなると余計に気まずくなってしまう。
「こ、来れるかどうかは置いといて、千鶴の意思としては来るでいい?」
「うん」
「先生に聞いて来れるんだったら、俺のスマホにメールして。じゃあ、そろそろ帰るね」
「……うん、わかった。バイバイ」
「バイバイ」
病院を出て、帰りのバスを待つ時間、俺は宮下に千鶴のクリスマスパーティー参加の意思を話した。
『了解しました。ありがとうございます』
「?俺、特に感謝されるようなことしてないけど」
『……あ、何でもないです。では―———』
「え?あ、待って……。切れた」
スマホの液晶には、通話終了の文字が表示されていた。
ほんとに、感謝されるようなことなんてやってないけどな。まあいっか。
答えの出てこないような疑問は投げ出して、俺はバスを待った。
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