第32話
俺と智がクリスマスパーティーを思いついたその日、俺は宮下に連絡を取った。毎度注意をされてるからな。
というわけで、翌日の放課後、俺と智と宮下はファミレスに集合した(厳密に言えば、宮下が先にファミレスにいて、俺と智が一緒)。
窓側に多くの目を惹いて黙々と読書をしている宮下を発見し、俺たちは彼女に挨拶をしてその席に座った。
「お疲れー、花織ちゃん」「お疲れ、宮下」
「お二人とも、お疲れ様です」
宮下はページをめくる手を止めて、挨拶を返した。
その後俺たちは、ドリンクバーを頼んだ。
「……どうしたんですか弘人さん、拍子抜けした顔をして……?」
しばらくして、宮下が俺の顔をじろじろ見だしてそんなことを言い出した。
「え?あ、あぁ……」
彼女の発言が予想外過ぎたものだったけど、よく考えればそんな顔をしていた。理由は今までと比べれば簡単にわかる。
「今日は怒らないんだなって」
「それは、事前に呼び出すのなら、私も怒りませんよ」
しかし……と続ける宮下。彼女は俺と智を交互に見て、ため息をつく。
「どうして、そのようなことを思い付いたのですか?」
俺と智は、宮下の驚いた表情と自分たちを褒める様子を思い浮かべて、どや顔で彼女に思い付きの経緯を事細かく話した。
「へー、そうですか」
あれ?反応が薄い……?
「お、驚かないの?」
先行して智が口を開く。声が震えていた。
「そうですね、驚きはしましたし、実際千鶴さんがサンタさんにどのような反応をするのかは気になりますけど……」
ここまでを淡々と説明する様子を見れば、次の宮下のセリフは大方予想がつく。
「まぁ、大体あなた方ならそういうなって気がしていました」
「「うわあああああああああああああああああああああ!!!」」
俺と智は、まるでそこを銃で撃たれたかのように、心臓部分を押さえて倒れていった。
「で、パーティーは私の家でやるってことでいいですね?」
赤橙色の紅茶を優雅に啜りながら、宮下が確認した。
「うん。ありがとね、花織ちゃん」
ストローでオレンジジュースを飲みながら、智が首を縦に振った。
「…………」
そして、俺がこの世のものとは思えないほどグロテスクな色の液体に、今、口をつけようとしていた。
「……どうして、そのようなものを取ってきたんですか?」
宮下が憐れんだ目でこちらを見る。
「いや、俺だって普通にコーラとかの飲み物にしようと思ったよ」
「なら、どうしてその液体に変わってしまったのですか」
「コーラの隣に『
「…………はぁ……」
あからさまなほどでかい溜息。
でも、ほんと誰だって取るでしょ。
「わ、私のと変えてあげようか?」
口の端を引きつらせながら、智が手元のオレンジジュースを俺に差し出そうとする。が、俺の救いの手を宮下がぴしゃりと断った。
「智さん、いけません。これは彼が自分で選んだものです。責任をもって自分で飲んでもらいます」
「そ、そんなぁ」
がくりと項垂れる。
「ほら、早く飲んだらどうです?」
宮下がゲス顔になってせかしてくる。
「わかったよ!飲めばいいんだろ飲めば!」
俺はやけくそ気味に、目の前にある液体を勢いよく飲んだ!
「…………」
「…………」
二人が俺を見守る中、俺は———
「…………おいしい……」
「「えっ!?」」
意外にも、その液体はおいしかったのだ。
「なんていうか……こう、とにかくおいしいんだよ!なんともいえないけど!」
「な、なにが言いたいのかよくわからない……」
「じゃあ、智も飲んでみろよ!おいしいから!」
俺は困った表情の智に宇宙味のこれを薦めた。
「そんなに言うなら……飲むけど」
そういうと割と素直に受け取る智。そのままゴクリ。
「っ!おいしいよ、これ!」
「えぇ!?」
「あまりうまく言えないけど、でもすごくおいしい!」
「だよね!ザ、宇宙って感じの広大な味!」
「ますますわかりません……」
「宮下はいらないの?」
「いりません!ていうか、智さんそれって……」
「……あ」
途端に、智の顔が赤くなった。
「……?どうしたんだ、智。顔が赤いぞ?」
「な、なんでもないっ!私帰るねっ!」
顔を真っ赤にした智は、代金を机に置いて、さっさと店を出て行った。
「では、ここでお開きにしますか」
残された俺と宮下は、それぞれお会計を済ませて、店を出た。
「大丈夫かな、智」
俺はもやもやした気持ちで、一人帰路に就いた。
後日、たまたま寄ったファミレスで宮下がこっそり『宇宙味』のドリンクを飲んでいたことは……まぁ、本人には言わないでおこう。
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