第30話
十一月中旬。
とある事情で、現在俺は放課後の図書室にいる。
話は数時間前の宮下と会った廊下に遡る。
俺は幼馴染の千鶴のことが好きになってもらいたい。
そのためには、現在千鶴と付き合っている宮下が別れなくてはならないのだ。
しかし、どうすれば宮下が千鶴と別れてくれるのか。
千鶴の悪口を言って、宮下の千鶴を好きな気持ちを失せさせるとかいう考えが頭に浮かんだのだけれど、千鶴の悪口なんて頭が少し悪いくらいしかないし、それを言う俺も気が悪くなってしまう。
悩みに悩んだ末、俺は突然閃いてしまった。
俺との千鶴とのエピソードをいろいろ聞かせれば、自分はまだまだ未熟者だったと思い、別れてくれるんじゃないか、と。
早速、宮下にメールで『放課後に図書室に来てくれ』と頼んだ。
そんなわけで、俺は今、図書室にいる。
「お邪魔します」
噂をすればなんとやら、ギギギと扉の開く音がして宮下が現れた。
「こっち」
俺は宮下に居場所を明かす。宮下が俺の向かいの席に着いた。
「で、なんで私を呼び出したんですか?ちゃんとした理由がないとマジぶっ飛ばしますから―———」
「俺、実は千鶴と幼馴染なんだ!」
「…………は?」
あ、あれ?おかしいな……。
予想だと、「えぇ!?」くらい驚いてくれるはずなんだけど。
俺が予想外の展開に混乱していると、宮下が大きな目でぎろりと睨んできた。
「それだけ……ですか?」
「ま、まだある!まだあるから!」
宮下から漏れだす異様な殺気を感じて、俺は次なるエピソード言う。
「お、俺、実は小さいころほぼ毎日千鶴と遊んでたんだ!」
「…………で?」
「…………」
ひ、冷や汗が止まんねー。
学園アイドルの宮下
「まさか私を呼び出した理由は、あなたのそんなしょうもない自慢を聞かせるためだけなのですか!?」
しょ、しょうもない自慢……。
俺の心に言葉の矢が突き刺さる。
「はぁ~。折角私が、あなたのために、かわいい
「み、宮下……?お、落ち着いて!拳を握らないで、話し合おう!な!」
「許しませんっ!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!」
「この度は、
俺は腕組みをした宮下に見下されながら、土下座をしていた。
これは、何とか宮下が落ち着いてくれたものの、「土下座。」と言われ、無表情の圧力に負けた俺は土下座をしてしまったという状況だ。
「うむ、よろしい」
宮下が腕組みを解いた。どうやら、怒りが鎮まったらしい。
俺は心底ほっとして、立ち上がった。
そのまま二人、さっきと同じ席に腰掛ける。
「で、あなたが私に言いたい本当の目的はなんですか?」
「……え?」
「回りくどいです。言いたいことがあるなら、きちんと伝えてくれないと、聞いている側からして気持ち悪いです。まぁ、元からあなたは気持ち悪いですけど」
「いつから気付いて……?」
「『俺、実は……』からです。あなたが普段は口にしないセリフでなにか隠しているんだなと察しました」
す、鋭い。こいつにウソは利かなそうだ。
「そ、そうか。俺がお前を呼び出した本当の目的は、頼み事をするためだ」
「その頼み事とは?」
「ち、千鶴と別れてくれ!」
「…………ふーん」
俺は宮下の反応を恐れながら、頭を下げた。しかし彼女は、ノーリアクションだった。
「お、怒らないのか?」
「怒りませんよ。大方予想通りです」
「そ、そうなのか……」
俺は豆鉄砲を食らったような間抜け面になってしまった。
「あなたは、千鶴さんとはどういう関係なんですか?」
宮下が質問してきて、俺は少し考えた。
口を開く。
「わからない。千鶴が記憶を失う前は幼馴染で恋人同士だった。でも、今は友達なのかな」
「そうですか」
宮下が長いまつげを伏せる。あ、今の暗かったかも。
俺はその場を明るくしようと必死に話す。
「で、でも、千鶴は生きてるんだし、それだけで俺はいいんだよ。あと、(関節)キスもしたしね」
「はぁ!?」
突然奇声を出した宮下が、目をまん丸くして席を立ちあがる。
「そ、それって本当なんですか!?」
「え?あ、(関節)キスのこと?本当だけど……」
「う、うらやましい!!私だってまだ千鶴さんとキスをしたことないのに!」
「そうなの!?俺はとっくに(関節)キスしているものだと思っていた」
「わ、私だってキスしたいですけど、なかなか言い出せないんです。あーもうっ!うらやましすぎる!許しませんっ!!」
宮下が飛び掛かってきて、俺の首を締めようとしてくる。
「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
その後話し合って双方にすれ違いがあったことが判明。無事、事態は収まった。
「ていうか、私と千鶴さんはとっくに別れてますよ」
宮下から放たれる衝撃の発言を聞き、俺は椅子ごと後ろに倒れそうになった。
「マジ!?なんで!?」
「理由は言いませんけど、マジです。本当です」
「なんだよ、先に言えよ」
「いえ、言おうとしましたけど、あなたが関節キスをしたとか話を中断させることを言うからですよ」
「そうだったのか。ごめんな」
俺は顔の前に手を合わせて謝る。
「じゃあ、用事は済んだし解散な。また明日」
「はい、また明日」
宮下に手を振りながら俺は図書室を出て、自宅に帰った。
*
「まったく、うらやましいです」
誰もいなくなった図書室で、宮下花織はぽつりと呟いた。
『か、花織ちゃん、別れようって、いきなりどうしたの?』
『あなた、他に好きな人いますよね……』
宮下はあの時のことを思い出す。
『ごめん、花織ちゃん……』
『いいのですよ、あなたが謝らなくても。大体、私が突然あなたに告白したのですから、非は私にあります』
あの時、私が別れようなんて言わなければ、こんな気持ちにならずに済んだのでしょうか。
『花織ちゃん、最後に頼み事してもいい?』
『はい。いいですけど、なにを頼むんですか?』
『私が弘人君のこと好きなの、弘人君に言わないでほしいの』
私は……神山さんに、胸が焦がれるくらいの初めての嫉妬をしています。
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