第29話
秋を彩っていた木々はすっかり枯れ、空気が冷たく鼻の奥がつんと刺されたような感覚になる。季節が移り変わり、冬になったのだ。
白い息を吐き、手を擦る。それでも身震いをしてしまう。
冬がこんなに寒いなんて。人は一年も間を開けると、寒さというものをすっかり忘れてしまう生き物なのだと、実感した。
さすがに、教室は外よりも暖かいだろう。暖かくあってくれ。
そう願いながら、足早に学校へと向かった。
……ところが。
「こ、ここも寒いのかよ!」
教室内は外と同じくらい——いや、外よりも温度が下がっている。
「た、確かにね……」
同情してくれたのは、隣の席の智。
彼女はカイロを手に持っているが、なかなか温もらないのか、さっきからシャカシャカと振っている。
「ニュースは寒くなるって言ってたけど、こんなに寒くなるとは思わないよね」
「ほんとにな。ストーブが欲しいよ」
手を合わせて口の前に持っていき、自分の息をかける。
それにしても、冗談抜きで寒い。
智がカイロを振る手を止めて、弄び始めた。
気持ちだけでも温もろうと、智のカイロのほうを見つめていると、
「……使う?」
憐れんだ表情をして、彼女がカイロを俺に渡してくれた。
「いいの!?」
「う、うん」
「ありがとう、智!」
強く、カイロを握って温まる。
はしたないと言われるかもしれないが、今の俺にはそんなことはお構いなく手の隅々までカイロの温度に浸れるように、触れていた。
「あったけぇ・・・」
思わずそんな言葉が口から漏れてしまう。幸せな気分なのだ。
「そっか」
智が隣でつぶやいた。と、
「あ、ごめん!」
今更このカイロが彼女のものだということに気が付いて、急いで返す。べたべたと触っていたことを謝って。
俺は智に申し訳なさを感じながら、せっせと一校時の授業の準備をした。
智は机の下で上機嫌にカイロを握り締めていた。
昼休み。
俺が何気なく廊下を歩いていると、学年アイドルの
「あ、宮下」
「神山さんですか。……ちっ」
さりげなく舌打ちをする宮下。
彼女は、今までにたくさん告白されてきたけど、それら全部を断ってきた、高値の花。しかし現実は、恋愛感情が同性にあるだけなのだ。
あと、なぜか俺を嫌っている。
「最近、千鶴とはどうなんだ?」
宮下は、
「まぁ、可もなく不可もなく。普通って感じです」
「そうか。じゃあな」
「はい。また」
宮下の声を背で聞いて、俺は前へ進む。
俺は千鶴が好きだ。その千鶴は宮下と付き合っている。
だから宮下は俺のライバルだ。
俺は千鶴に、宮下よりも好きになってもらうんだ。
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