第27話

安嶋あじま……千鶴ちずる……?」

 スマホの着信画面に表示されていたのは、なんと病室にいるはずの幼馴染の名前だった。でも、千鶴は記憶を失ってしまったから俺の電話番号なんて知らないし、だいたいスマホは持っていない。

 千鶴から電話が掛かってくるのは、ありえないことだ。

 多分寝ぼけているのだろう。そりゃそうだ。さっきまで夢の中だったからな。

 俺は目を擦って、着信画面を見た。………変わっていない。

 ………で、電話の相手がだれであれ、待たせるのはよくないよな、うん。

 とりあえず、スマホを耳に当てて電話に出てみることにした。

 固唾を飲む。

「も、もしもし……」

『あ、もしもしひーくん?』

 耳元から聞こえた声は、紛れもなく千鶴のものだ。つまり——

「千鶴本人なのか!?」

『え……うん。そうだけど……』

 千鶴の戸惑った声が聞こえたけど、今はそれどころではなかった。

「どうして俺の電話番号を?なんで携帯持ってるの?ていうか、元気?」

『そ、それは————プツン』

 俺の質問に答えようとした瞬間、千鶴の声が途切れてしまった。

「え?え!?」

 スマホを耳から離して見ると、液晶には通話終了の文字。どうやら、俺の耳が通話終了のボタンに当たって、電話が切れたようだ。まだまだ話したかったのに。

 目を強く瞑り、下唇を強く噛んだ。後悔の具現化が顔に浮かびやがる。と、

 夕食を食べていないの胃袋が、空腹を訴えてきた。

「……ご飯を食べに行くか」 

 ベッドから出ると、真っ暗な廊下の電気をつけながらリビングに行く。

 電話の続きは、明日千鶴のところに行ってたくさんすればいいのだ。

 俺はお湯を沸かしながら、千鶴に何を話そうか考えた。

 

 今日は平日だ。しかも月曜日。

 本来ならば、目を覚ましたことを後悔してしまうのだが、今は違う。無事にこの一日を迎えられたことに感謝した。

 俺は食パンをオーブントースターに入れる。自然と、曲名のない弾んだリズムを刻んだ鼻歌が作業中に入り雑じった、おかげでにぎやかな朝食準備になった。 

 トースターのパンが焼けた合図があり、リビングに香ばしい匂いが漂う。

 俺は食パンを皿にのせて、イチゴのジャムを丁寧に塗ってからかじった。焼きたてのパンに甘酸っぱいイチゴジャムがよく合う。おいしい。

 朝食を済ませた後は、着替えの時間だ。

 自室のタンスから、適当な服をパパッと取り出し、着た。

 そのあとは、顔を洗ったり歯磨きをしたりして、支度は完了。

 今日の予定は、久しぶりの千鶴のお見舞いだ。

 俺は安定しない口元を引き締めて、ドアを開けた。 

 

  

 

 

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