第18話

 文化祭で演劇をすることが決まった次の日。その詳細を話し合う朝のホームルーム。

どうせ昨日の男どもがごたついて長引くんだろうなー。俺は心底早く終わればいいという思いで、臨んだ。

「演劇は、友情をテーマにしたやつがいいでーす!」

「俺もそう思いまーす!」

「主役は、神山かみやま旭ヶ丘あさひがおかがいいと思いまーす!」

「私もそれがいいでーす!」

「じゃあ、それで決まりですねー!」

 存分に長引くと思われたその話し合いは、なんと10秒足らずで解決してしまった。しかも不気味なことに、昨日はあんなに批判的だったやつらもノリノリで参加していた。

「ちょ、ちょっと待った!」

 みんながその意見に決定ムードのなか、俺が手をあげる。

「なんで主役が、俺と智なんだよ!」

 そこが、俺には一番理解ができない。

 智は知らないが、俺は決して演劇がプロ並みにうまいわけではない。自信を持って断言できる。俺には、演技力がない。

 多分こいつらもその事を知っているのに、なぜ俺を主役にいれるのだ?

 俺の問いに、委員長が淡々と返す。

「それは昨日のことを見れば、適役があなた達しかいないからです」

 そこで、一人の男が立ち上がった。昨日は怒りで理性を失い、俺の胸ぐらをつかんできた、友人のクラクラだ。

 彼は自らの手で胸を押さえ、みんなの意見を代弁して俺に伝えた。

「俺も最初は、メイドカフェがやりたかった。でも、昨日のアレを見て変わったんだ。が助け合うところを見ていたら、胸をドーンと打たれたんだ」

「昨日のアレって…………ハッ!」

 そこで、俺は彼の言う『アレ』を思い出してしまう。そして、みんなが言おうとしていることも。抵抗することは無駄だと言うことも。

 さらに、クラクラが続ける。

「俺は……、いや、俺達は、お前たちにこの演劇をして欲しいんだ!俺たちを感動させたあの友情で、今度は全校生を感動させて欲しいんだっ!」

 その熱弁に、教室内が拍手で溢れた。どうやらこの教室のなかに、彼の意見に反対なやつがいないらしい。

 諦めた俺は、盛大なため息と共に、ポツリと一言漏らした。

「「どうしてこうなったんだ……」」


 放課後、宮下みやしたに呼ばれた俺は、いつも通りの図書室に足を運んだ。

 図書室の扉を開けると一人、大きなテーブルにつく少女がいた。

 宮下花織花織。彼女は所謂いわゆる学年アイドル、完璧美少女、高嶺の花。しかし現実は、自分と同姓の人が恋愛対象だとか、どこか抜けているところがある、ただの美少女だ。

 俺は、宮下の前の席に座ると、すぐにクラスの演劇のことについて話した。

 主役が俺と智という話などを聞いたあと、宮下は、なにか企んでいるかのように笑った。

「それは、こちらとしても都合がいいですね」

「…………?なにが都合いいんだ?」

「主役になれば、智さん話す機会も多くなるでしょ?そこで、私がちょちょいとアシストを加えれば、絶対に仲直りできますよ!」

 そう、自信を持って言い張る宮下。

「へ、へー……。ソレハキタイデキルナー」

 俺はひきつり笑顔を張り付かせ、なんとかリアクションをとった。

 宮下はジト目でこちらを睨んでくる。

「…………棒読みでしたよ」

 バレたか!

「まぁ、いいです。重要なところはそこじゃないので」

「う、うん。それで、アシストってどのようなことをするんだ?」

「はい」 

 このあと、宮下が耳打ちした言葉に、俺は目を見開いた。

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