第17話
「『BNN大作戦』?」
俺はあの学園アイドル
「そう、
なんだその作戦名は!刹那、俺はそのツッコミを、心のなかで止めた。なんともアホっぽいけど、考え込まれている感が否めないような気がするその作戦名に、適当なツッコミは失礼な気がした。
「へ、へー……。…………い、いい作戦名だね!」
しかし返答に困った俺は、なけなしに親指を立てて誉め言葉を宮下に送った。
「でしょ!?私、この作戦名をずっと考えていたのよ!……じっくりと考え込んだだけあるわね、この作戦名」
腕を組み、感慨深く頷く宮下。…………今俺のなかで完璧少女の宮下のイメージが崩れ去った気がした。…………気を取り直して。
「それでその『BNN大作戦』て言うのは、具体的にはなにをするんだ?」
「それは……お楽しみ、と言うことで。今言えることはこの私が考えた作戦だがら、絶対に成功する、ということよ!いい?」
むしろ成功する未来が見えない。とてつもなく不安だ。しかし、
「わかった。俺と智がいつも通りの関係に戻れるよう、いい作戦を期待しているぜ」
今の俺には、それにすがることしか出来ないため、頼れる友人の宮下に、首を縦に振って応えていたのだった。
遠目に見える山々が秋を彩り始めた今日、我が校では文化祭の準備及びBNN大作戦が、本格的に始動した。
今俺は、文化祭の準備で各クラスでする出し物についての話し合いが行われていた。
「なにか、出し物のリクエストはありますか?どんどん意見を出してください」
クラスの委員長の高橋さんが、みんなの前に出て、質問をしている。俺は特にやりたい出し物とかはないので、意見は出さなかった。周囲の人も俺と同じ『やりたいことがない』、もしくは『やるのが面倒くさい』という理由で、動こうとはしなかった。
そのまま数分の沈黙が続き。委員長の高橋さんが嘆息し、席のグループで最低ひとつやりたい出し物を考えるようにと提案してきた。
「……………………」
俺はその言葉を聞くや、硬直してしまった。俺のグループには……未だ話ができていない智がいる。四人一組なのだが、俺にとっては気まずすぎる。
……ッハ!?これは、もしかするとこれは宮下が仕組んだ『BNN大作戦』の内容なのではっ!?
そんな考えが頭に
仕方なく、俺は話し合いをするためみんなと向き合った。班のグループは、男女二人ずつの四人一組で、俺の班には智以外に男子は
今は積極的に行動せず、俺も智もチラチラと互いの表情を窺っては、たまに目が合い俯いてしまう。そういうのを、何回も繰り返した。
そのまま数分が経過し、さすがに進めないとやばいと悟った俺は、気まずさにぎこちなかったが、話し合いを進行させるために口を開く。
『じゃあ……』
と、誰かと声が被った。その正体は、なんと目の前に座る智だ。彼女も、俺と同じように声をかけ始めていた。
俺達は、赤面してまたも俯いてしまった。
そのあと、数分間が経過し、無口な桂が珍しく「メイド喫茶」という王道の意見をだし、俺たちもそれに賛成をせざるを得ない状況だったため、俺たちのグループは、メイド喫茶という意見を出したのであった。
最終的に、各グループで出された意見は、メイド喫茶か演劇の二つにわかれた。他は、少数意見の写真展示とかだった。
これらの意見は、これまたクラス委員長の提案で、くじの投票形式の多数決で決められることになったのだが……。
なんとこの意見が、男子と女子でほぼ半々にわかれてしまった。男子より女子のほうが一票有利で、多分俺は、この文化祭の出し物を決められる立場にいる。
…………どう…………する?
俺の心はいま、この分岐ルートを前に早鐘を打っていた。この時点で智は、演劇に票を入れていた。もちろん、メイド喫茶となると、女子がやらなくてはならないから。
しかし、もし俺が「智と仲直りをする」という私欲の目的のために演劇を選んだとしたら、このクラスの男子たちから、大バッシング、最悪校舎裏でリンチにされかねない。
この選択は一見しょうもないと思われるが、俺からすれば今後の人生がかかった、重要なものなのだ。
間違えてはいけない。正しいルートを、選ばないと。
そんな俺が出した意見は…………。
このあと俺は、クラス中の男子から大バッシングを受けることとなった。
「はいはい。そこの男子、騒がない」
クラス委員長が、俺に向かって暴言やらブーイングやらをする男子たちを
「それじゃあ、演劇の詳細は明日のホームルームで話し合いますから、やりたい劇があったら、是非言ってくださいね」
と、ここで今日のホームルームが終わった。みんなが伸びをしたり、帰りの準備をしたりするなか。
友人であるクラクラを筆頭に、数人の男子が机ごと俺を囲み集まってきた。
「どういうことだ!あぁん?」
バンッと勢いよく俺の机を叩き、メンチを切ってくる一人の男子生徒。さらに、その後ろにいたやつが怒り混じりの声色で、俺がメイド喫茶にしなかった文句を言う。
「もしお前がメイド喫茶にすれば、このクラスの女子のメイド姿が見れたというのに……!なんで演劇なんていうつまらないものにしやがった!あぁん?」
「な、なんでって……。メイドのコスプレをさせられた女子が、かわいそうだと――」
俺が言い訳を垂れ流していると、ここまで黙っていたクラクラが、俺の言葉を遮って叫ぶ。
「あまったれんじゃねぇっ!!!たとえ女子に嫌われても、女子のかわゆい姿を謁見する!それが、『男』ってもんだろっ!」
その台詞に、背後の男子が「そーだそーだ」と頷く。すでに周りの女子から、ひそひそと罵倒の言葉を食らっているのに、全く気にする様子はない。
「と、とにかく!多数決で決まったものは仕方ないから、文句は言うなよ!」
俺はそう締めて、席を立つ――――ことはできなかった。男子たちの威圧がすごい。かといって、決まったものは仕方ないし。
俺はいったい、どうすればいいんだっ!?
解決の糸口が一切見つからず、困り果てた俺は、頭を抱えて悩んでいた。…………と。
「ちょっと!やめてあげてよ!みっともないわ!」
横の席から、最近は聞いていなかった声の強気な言葉が聞こえてきた。その声の主は、クラス全員の注目を集めた。
「智…………」
俺は思わずその声の主の名前を、ポツリと呟いてしまった。
「おおう、なんだぁ?好感度クソ野郎を庇おうってか?
完全に理性を失っているクラクラが、俺を庇った智を責める。しかし、俄然智は態度を変えず、自らの胸元で腕を組んで反撃を開始する。
「別に
「それを庇ってるって言うんだろっ!」
完全に火がついたクラクラが、女子に向かって厳しい口調で言い返す。しかし、智は怯まない。
「だいたい、多数決で自分の意見が通らなかったからって愚痴愚痴いうやつのどこが『男』だっていうのよ」
それどころか、ぐうの音もでないようなド正論を突きつけていた。さすがにヒートアップした男子たちの心に刺さり、なにも言い返せなくなっていった。
その後、無事理性を取り戻し冷静になったクラクラとその仲間たちが、俺に謝って下校していった。
「ありがとうな、智。おかげで助かったよ」
一旦落ち着いたあと、俺は隣の席で読書をしている智に、頭を下げた。しかし智は、速攻でそれを否定する。
「べ、別に弘人のことなんて、助けてなんてないんだからっ!」
そしてそのまま、そっぽを向いた。
まだ、心を開いてくれていないか……。
俺は頭をポリポリ掻きながら、心のなかで溜め息をついた。
相変わらず、仲直りができないなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます