第6話
朝
心地のよい小鳥の
「んんんんんっ!」
わけはなかった。
俺は、布団を力一杯抱いていた。
やべぇ。一睡もできなかった……。
というのも昨日、俺は千鶴と間接キ……。恥ずかしいぃ!思い出して、また、布団を抱いて
高校の制服に着替えている俺は、まだ時間もあろうから、ゆっくりと、あまり昨日のことは考えずに、会話を交えながらパンを食べていた。
「母上、今日のおパンは、とても上品なお味をしておりますね。焼きたての食パンのカリっとした触感に、その上に乗られているジャムの、甘酸っぱい芳醇な、まるでちず―――」
口から出掛けた言葉を、必死に押さえ込むように手で覆った。まずい!ばれたか?もし母に、千鶴と間接キスをしたということがバレていたら、恥ずかしすぎて、この家にいれなくなってしまう!
果たして、母の反応は―――
「なにいってるの、いつも通りのスーパーで買ってきたパンでしょ」
よかった。バレてない。
俺はホッとして、胸を撫で下ろした。
「ていうか、早く食べないと、学校、遅れちゃうわよ」
「っえ?」
言われてハッとした俺は、すぐに壁に掛けてある時計の方を見た。
「アぁ―!!遅れる!なんで言わなかったのさ!」
「あんたが、下らないことしているからそうなるんでしょ!ほら。さっさと学校に行け!」
「あぁもう!最悪だぁ~」
神山家朝は、騒がしく始まった。
足を骨折して、まともに動けない俺は、通学をバスですることになった。
母は、仕事で学校とは別の方向へいくので、バスを余儀なく強いられたのだ。
そんな俺は現在、ラブコメをする気はあるのかと言われるほど、なんの角もない一直線の道を、松葉杖を使って移動していた。
バス停まではもう少し。狭い住宅街の道を抜けて、ようやく大通りをでた。ちょうど横をバスが走っている。
「バスよ!俺は負けねぇ!俺はお前を、追い抜かしてやらぁ!」
謎の闘争心を燃やして走った結果……。
「ふー、なんとか間に合った」
バスには追い抜かれたものの、どうにかバスに乗れた。……のだが。
座るとこ、ねぇぇぇぇぇぇ!!!
座席が全部埋っている。バスに乗り遅れそうになったものは、こんな仕打ちを食らうのか!?恐ろしい……!
優先席には、おばあさんとサラリーマンのおっさんが座っている。おばあさんは座っていていいとして、サラリーマンのおっさんは、なんか面倒ごとに発展しそうで―――
俺は結局、鞄と松葉杖を抱え込み、もう片方の手でつり革を持って、バスのなかを耐え
バスに揺られてひとつ目のバス停を過ぎた。バスのなかは、満員状態。おばあさんもサラリーマンのおっさんも一向に降りる気配がない。
窓の外からの景色を見て、気を紛らわしていたが、そろそろ足が限界になって、プルプルと足が震えている。
もう一度、見落としはないか注意しながら辺りを見ても、他に開いている席がない。
これは詰んだ。そう悟った刹那だった。
「あの……そこの席、譲ってくれだぜ」
誰かが、俺の気持ちを代弁するような
俺は、バッと後ろを振り返えると、そこには俺より少し小柄の、自分と同じ高校の制服を着た――しかし見覚えはない――生徒が、おっさんの前に立っていた。
「なんでだよ?」
おっさんが、ドスの聞かせた声で返す。しかし、生徒は一歩も引かず、その問いに答える。
「いや、困っているんだぜ。そこ、優先席だから、譲ってくれだぜ」
「へぇ、パット見どこも困っている感じはないんだがな、少年」
おっさんは、その生徒をまじまじと見て、言い返した。少年と呼ばれた生徒はこっちを見ずに親指で俺を指して、こう言った。
「いや、俺じゃなくてこいつが、だぜ」
「「……………え?」」
俺とおっさんの声が重なる。しかし言った本人は、それに構わず続ける。
「こいつ、骨折しているんだぜ。だから、そこに座らせてやるんだぜ。そこ、優先席だろ?」
なに食わぬ声色で説明する。
おっさんは、ギロリと俺を睨み付けながら、そうなのか?、と聞く。はい、と言ったら面倒ごとに巻き込まれそうな気がするので、俺は首を横に振った。
俺が否定をするのが気に食わなかったのか、ムスっとした表情で、その少年が振り返ってきた。
その顔は、すごく整っていて、
しかし、その整った顔をムッとしかめて、イケメンは問う。
「?座りたくないのかだぜ?」
おっさんのような怖い顔はしないものの、こちらは無表情な圧力で脅してくる。俺は怯み、またも首を横に振った。
「どっちなんだよ?」「どっちなんだぜ?」
おっさんとイケメンが声を揃えて言う。俺は確かに座りたい。だって足が折れてるんだもん。でも、それでも、面倒ごとには巻き込まれたくない!
俺が心で葛藤をしていると、やがて痺れを切らせたおっさんが、貧乏ゆすりをしながら睨んでくる。
「どっちなんだ?座りてぇのか、座りたくねぇのか?」
その言葉に、俺は思わず頭に来て、おっさんを睨み返して、答えた。
「ああ、座りたい、座りたいよ!」
俺のその返事に、乗客のいくらかの人が、『いいぞー』などといった称賛の声を上げた。
これには今まで強気だったおっさんも、たちまちばつの悪そうな顔をして、近くのバス停でそそくさと降りていった。
こうしてありがたく、俺は先程までおっさんが座っていた優先席に、座らせていただいた。
「ふー、やっと一息つける……」
腰を掛け、リラックスした。そしたら、自然とそういう台詞が、口から出てしまった。
「そうか。ならよかったぜ!」
イケメンは、俺が座っている席の前に立ち、ニコッと笑いながら返事をしてくれた。
「それにしても、よくあんなことができたな。俺にはできなかったわ」
「いや、困っている人を助けるのは、当たり前のことだぜ!」
イケメンさん!カッコよ過ぎます!
俺が感心していると、イケメンが、突然思い出したように、問う。
「そういえば、名前、まだだったぜ。俺は、
「あぁ、俺は
その後俺らは、テキトーに駄弁りながら、バスのなかに揺られていた。
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