第4話

翌日、千鶴ちずるの両親が、病室を訪れた。

「いやー!ビックリしたよ!」

 そう言うのは、千鶴の父――安嶋あじま次郎じろうさん。たくさんの擬音を用いて、あの爆破事件のことを説明してくれた。

「うんうん!」

 それに相づちを打つのは、千鶴の母――安嶋千怜ちさとさん。こちらは、壮大なジェスチャーを使って補足をした。

「まぁ、無事で何よりだ、弘人ひろと!」

 次郎さんが、そう言いながら、俺の背中を(本気で)叩いてきた。

「ぶ、無事じゃないですよ!」

 今度は背中を骨折しそうなので、俺は、全力のツッコミを次郎さんにした。

 

「ところで……」

 話が一段落したところで、ふと、千怜さんが話の話題を変えてきた。

「千鶴は……どのなの?」

「え?あ、隣のベットに……」

 そこまでいって、この先の展開を察して口を塞ぐ。が、時すでに遅し。千鶴両親は、既に隣のベットのカーテンをめくっていた。

「よぉ、久し振り!千鶴!」

「久し振りね、千鶴!」

 すぐさま、千鶴の目の前で、千鶴の手を握りながら、歓喜の声を挙げていた。 

 あちゃー。やっちまったな、と言わんばかりに頭を押さえる。

 これが、なら問題ない。しかし、今の千鶴が普通じゃないことを俺しか知らない。

 当然、千鶴の反応は……

「キャァァァァァ!!!」

 悲鳴であった。

 

 偶然、病室の前を通った看護師により、ちょっとした一大事になったが、何とか千鶴に説明し、落ち着いてもらった。

 しかし、千鶴両親(なぜか俺まで巻き込まれて)は、病院に設けられた雑談室で、説教を受けていた。

「病室で大声を出しては、いけません!あと、勝手にカーテンをめくっては、いけません!今度からは、それをしないように!」 

 看護師さんは、ぴん、と人差し指を立てて、俺らに注意した。

「すいませんでした」

 ド正論を突きつけられた俺らは、椅子の上に正座し、即座に頭を下げた。


「……しかし、なんで千鶴は悲鳴を挙げたんだ?普通、うれしいはずなのに……?」

 腕を組み、首をかしげる次郎さん。うれしいかはさておいて、俺は、今の千鶴の容態を話そうとした。が―――

「…………」

 これは、言うべきなのか。

 俺は、言葉をつまらせてしまった。

「?どした?」「?どうしたの?」

 次郎さん、千怜さんに心配され、いえ、と返すも、俺の脳内は、究極の選択の最中だった。

 知らせないのは、少しかわいそうだが、でも、知ってしまったら、それはそれでショックだよな……。

 ついには、うつむいてまで考え込む。

 だけど……親として、知る権利があるよな……。よし!

 決意を固めた俺は、正直に、今の千鶴の容態のことについて話した。そして、同じミスを犯してしまった。

「「えええぇ!?」」

 次郎さんらの驚きの声が、今度は、病院全体に響く。

 あちゃー。またやっちまったよ。

 周りの視線が痛い!が、そんなことはどうでもいいと、言わんばかりに、交互に質問を投げ掛けてくる。

「それは、本当か!?」

「千鶴は、記憶のなくしたの!?」

「どこまで覚えているんだ!?」

「私たちのことは、覚えてくれているわよね!?」

 見事なコンビネーション攻めで、もう周りの目なんて忘れてしまって―――

「い、いっぺん黙ってください!」

 俺も思わず大きな声を出してしまった。

「しぃずぅかぁにぃぃ!何回言ったらわかるんですかっ!?」

 終いには、看護師さんが来て、俺たちはまた、説教を受ける羽目はめになった。

 

 とりあえず、次郎さんらに説明して、帰ってもらった。そして、そのまま自分の病室のベッドに腰掛けた。

 俺は天井を仰いで、嘆息を漏らした。

「ふー、疲れたぁ」

 俺、今まであの人たちとどう接してきたっけ?こんなに疲れたことが、いまだかつてあっただろうか……?

 生気が抜けたように、ボーッとしていたら、

「あ、あのっ……」

 と、遠慮気味の聞きなれた声が、背後から聞こえてきた。

 今は下げている、黒髪の美少女、千鶴だ。

 千鶴との関係は、現在友達。一応カップルだと言ったのだが、あなたのことはあまり知らないと、降られてしまった。

「……先程の方は?」

「ん?あぁ、千鶴の両親だよ」

「えっ!?私の!?」

 すごい驚き様……。

「なんか……嫌ぁだな……」

 そして、すごい嫌がり様……。

「ま、まぁ、ね!千鶴も、前はあんな性格だったから、ね!」

 つまりながらも、なんとか補足ををする、が……千鶴は、そう、とだけ答え、俯いてしまった。

 ど、ど、ど、どうしょう!?これって、俺の好感度……下がるよなぁ!?

 あたふたしてしまって、考えがまとまらないっ!とにかく、なんかいいことを言わないと!

「その時の千鶴、可愛かったな」

 チラ、チラ、と千鶴の方を確認しながら、少し聞こえるように呟いた。

 すると千鶴は……

「……え、あ、え?」

 少し動揺している。あれ?間違えたかな?

 俺が首をかしげるなか、千鶴は、こちらを見て、すこし微笑んだ。

「……ありがと」

「……………っ!」

 ドキッ、とした。なんだか顔が熱くなってくる。心臓ばくばくのなか、俺はこの顔を見られないように、必死に俯いた。

 あの笑顔は、反則級だ!かわいすぎる!

「と、とにかく!おしまい!また明日!」

 終いには、まだ午前中なのに、「また明日」なんて言ってしまった。

 俺は、なにもかも恥ずかしくなってしまって、すぐに自分のベッドのカーテンを締めた。

 が、頬を押さえ、怪我人とは思えないほど、のたうち回った。

 どうしても、あの笑顔が脳内にこびりついて離れない!

 かわいすぎるだろぉぉぉぉぉ!

 俺は、心のなかで、思いっきり叫んだのであった。

 


 

 

 

 

 

 

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