第2話 

 気がついたのは、数秒後。薄暗い空をみて、自分は仰向けに倒れているのだとわかった。

 体を起こすと、辺り一面、煙に囲まれていて、周りからは、悲鳴などが聞こえてきた。

 しかし、当の自分はと言うと、何が起きたかわからないまま、ただこの混沌こんとんとした景色を、見渡していた。


 それから数十秒して、俺はあることに気づいた。

「……千鶴ちずるがいない」

 さっきまで、俺の隣で歩いていた、幼馴染みであり、カノジョ。その千鶴がいない。

 地面に手をつき、よろめきながら、千鶴を探すために立ち上がる。ここで気づいたのだが、左の足が痛む。俺は、足を引きずりながら、自分が倒れていた周辺を歩き回った。


 なかなか見つからないもので、嫌でも脳裏に、最悪の事態が浮かんでくる。少し泣きそうになったところで、さいわい、千鶴を発見した。千鶴は、うつ伏せに倒れていたが、目立った外傷はない。

 

「あぁ、無事でよかった!」

 口に出しながら、足の痛みを忘れて、必死に駆け寄った。

 しかし、無事であろう千鶴のひたいには、血が流れていた。

「っ!?」

 頭を打ったのだろうか?しかし、そんなことを考えるより、ここから逃げ出すことが、最優先だ。

 俺は、千鶴をおぶり、この煙の中から抜け出すように、出口らしきところを目指した。


 百メートルを歩いた頃だろうか。急に、ガクンと、重心が傾きバランスを崩して、倒れた。

「あ”あ”……」

 足が……痛む……。俺は、足を抱え込むように、うずくまった。

「これから……千鶴を連れて……逃げ出さないといけない……のに……」

 歯を喰い縛って、立とうとするが、痛みに我慢できず、今度は仰向けに倒れてしまった。

「はぁ、はぁ……」

 息が上がってしまい、この状況で気が参ってしまってか、両手両足を投げ出した。

 しかしまぁ、千鶴と死ねるなら、それでいいかな、なんて脳内で恥ずかしいことを思いながらも、

「リア充爆発なんて、よくいったものだな」

と、口では、皮肉っぽく吐き捨てた。

 


 再び目を覚ましたときは、外は明るく、天井は真っ白だった。

 体を起こそうにも、倦怠感けんたいかんにより、顔だけを移動させ、周りをみた。

 右にカーテンがある。でも、しまっている。左には、リンゴみたいなものと手紙が、物置き台みたいなところに、置いてある。前には、左足が吊られていて、横に視線をずらすと、テレビがあった。


 とりあえず、何かしないと始まらない。、ということで、手紙を左手で取り、そのまま広げて読んだ。

 親から。学校から。友達から。

 たくさん、とは言い難いものの、そこそこある手紙を読んだ。

 手紙の内容からすると、どうやら俺は、遊園地の爆発事件に巻き込まれ、病院に運ばれ、二日間眠ってしまっていたわけだ。


「……………………ん?」

 いまいち、状況が飲み込めてない。いきなり爆発事件に巻き込まれたって言われても、わけがわからない。

「あ、起きました?」

 俺が、わけもわからず、ホケーっとしていると、ドアが開き、看護師らしき人が入ってきた。

「あの……、爆発事件ってどういうことですかね……?」

 俺は、戸惑いながらも、その看護師さんに聞いてみた。すると、その看護師は、テレビをつけて、

「そのまんまの意味ですよ」

と、言った。

 そのまんまの意味って、と、再度聞こうかと思ったが、テレビの台詞セリフに遮られてしまった。

 

 朝の、八時頃のニュース番組だった。

 今日のニュースというところに、遊園地爆発事件、というタイトルがあり、ちょうどその話題について、話し合っていた。

「今は、ほとんどの番組であの話を取り上げているのよ」

 そう、看護師は言った。

「……………」

 俺は、多分間抜けずらで、ポカーン、としていたのだろう。看護師さんが、テレビ消します?、と言ってきたので、いいです、とだけ答えた。


「あ、一つ質問いいですか?」

 看護師さんが、病室を出ようとしたとき、俺は、思い出したように聞いた。

「千鶴。安嶋あじま千鶴は、どこですか?」

 それを聞いた看護師さんは、少し、ふふっ、笑いながら、答えた。

「千鶴さんなら、隣にいますよ」

「え?」

 俺は、少し驚いた。え?隣に?

 隣をみて、そして、看護師さんの方を見る。

 看護師さんは、相変わらず、ふふっと微笑み、そして病室を出た。


「……………」

 今は締まっている、カーテンの奥に、千鶴がいるのか……。

「……………」

 カーテンの奥に、千鶴……。

 カーテン、奥、千鶴。

「っ!」

 気づいたら、千鶴がいる、隣のベッドのカーテンを開けようとしていた。

 駄目だ!俺は、自分に必死に言い聞かせ、カーテンに掛けた手を退く。

 危なかった。人のプライベートを勝手に覗くなんて、嫌われるような行為だもんな……。

「……………」

 でも、いちカレシとして、カノジョの様子を見たいし、カレシカノジョの関係だし……ね。

 どうしても、悪いことだとわかっているのに、魔が差してしまう。再び、カーテンに手を掛けたとき、病室の扉が開いた。

「あ、言い忘れてましたが、明日、検査がありますので」

 そう、看護師さんが言って、再度出ていった。

 何てことをしようとしていたんだ!最低だ!カレシ失格だ!

 俺は、自分を責めて、そして、カーテンの方を見やった。

 ……もう、そっとしておこ――――

 次の瞬間、千鶴と

 

 千鶴と、目が合った。

 それは、普通では絶対にあり得ない。、千鶴と目があったのだ。

 千鶴は、ポカーンと、口を開けながら、呆然としているし、俺も、いまいち状況が飲み込めていない。

 二人の間に長い沈黙が降り、ようやく状況が理解できてきた俺は、口を開いた。

「は、はろぅ……、元気?」

「キャァァァァ!!!」

 返事は、自分が想像していたよりも斜め上を行った、悲鳴のようなそれだった。


 俺は、一旦千鶴に落ち着いてもらい、両手を合わせ謝った。

「悪かった!俺が魔が差して、カーテンをめくってしまったことは、ほら、この通り!ごめん!」

 俺が、必死に許しを乞うなか(顔をあげると)、千鶴は、まだちんぷんかんぷんな顔をしている。

 あれ?千鶴は、別の理由で怒っているのかな?でも、他に怒らせるようなことしたっけな?

 再度沈黙があったが、千鶴がこれを破るように口を開いた。

「……あなた、誰ですか?」

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