第27話 捜査協力でガッチリ

 翌日、ラウを通じて警察から応援要請が入った。


「ヴァルちゃんがゲットした音声が証拠になってね。残り2つのグループに対する捜査令状が取れたそうなんだ。で、現行犯で捕まえたいから取引き現場を押さえたいんだって」

「令状が取れたなら俺たちは必要ないんじゃないか?」


 いぶかしむヴァルラにラウもうなずいてみせる。


「それなんだけどね。今回は2つのグループを同時に捜索するらしいよ。で、どうやら前回のこともあってヴァンパイアの用心棒を雇ってるらしいんだ。まあ昼間なら問題ないんだけど、取引の品が持ち込まれるのが夜なんだって」


「確かにそれはヴァンパイアハンターの出番だな。で? いくら出すって?」


 令状だとかガサ入れだとかヴァルラにはどうでもいい。しっかりガッチリ儲かる事が第一なのだ。


「1グループあたり9000で合計18000シードル、情報料は800シードルで良いよ」

「お? 今日は随分良心的だなー。何か裏があったりしない?」

「まあ今回は自分の努力で手に入れた情報っていうより警察から依頼の伝言を頼まれただけ、って感じだからね」


 それを聞いてヴァルラは意地の悪い笑みを浮かべた。


「それなら情報料はタダで良くないか?」

「どんなだって仕事は仕事。頂くものは頂かないとね。友達でもそこんとこはハッキリしなくちゃ」


 ラウはすまし顔だ。それもそうだとヴァルラもうなずく。


+++


 動きがあったのはそれから2日後のことだった。埠頭の倉庫街、そして繁華街にあるクラブが残り2組のギャングの取り引き場所だという。

 警察があの後盗聴で得た情報では、今日の夜行われるらしい。取引を同時に行うのはリスクを分散させるためだろうか。


「じゃああたしがクラブに。ウィルには倉庫街を任せるわね」


 戦闘になりウェアウルフに変身した姿をクラブの客に見られるのはまずい。それに広くてひと気のない倉庫街なら、ウィルの豪快な戦いに一般人がまきこまれる事もないだろう。


 埠頭の方に行く警察にはあらかじめ「仲間にウェアウルフがいる」と知らせてある。警官達を驚かせないためと、ウィルが間違って彼らに攻撃されないためにだ。


「俺はウィルのサポートに行くよ。ミハイラちゃんは大丈夫だよね?」


 カメラをバックパックに詰めながら彼女の顔色を伺う。


「とーぜん! もう一人で大丈夫だってば」


 今回の任務の事のように言いつつ暗に結婚、そして独り立ちの事を言っているのだろう。ヴァルラは気付かない振りをしてそれをやり過ごしたが、その顔は引きつっている。ミハイラも彼のそんな様子にはほだされないとばかりに険しい顔つきだ。無言の応酬が続く。


(何なのさ、何なのさ。この凍りついた空気……)


 彼らに挟まれたラウは冷や汗をかきながら強張った表情を浮かべるばかり。


 ミハイラの方にはラウが記録係として付き添う。


「あまり近づきすぎないでね。ヴァンパイアやギャングに見つかってもお守りしてる余裕ないかもしれないから」


 ややピリピリしているのはいつものハンティングと勝手が違うせいだろうか。


「大丈夫! 情報屋に必要なのは人脈と推理力と逃げ足の速さだからねっ」


 ラウは満面の笑みで親指を立てるが、とても期待できない。


「とにかく見つからないように隠れて撮ってねぇ。分かった?」


 情報屋の顔を両手で包み込み、目を覗き込んで念を押す。ラウは頬を赤く染めて何度もうなずいた。


+++


 夜になった。取り引きの時間が近付く。

 ミハイラはクラブのカウンターでモヒートを注文し、店内をぐるりと見回した。


 白のチューブトップにデニムのホットパンツといういでたちで、何度かわざとらしく足を組み替える。薄暗い店内でも少し日焼けした美脚は眩しく人目を引いた。


 男を漁りに来たのかと、何人かのむさ苦しいバイカー達が声を掛けてきたのは面倒くさかった。しかしこれならハンターだと疑われる事もなくなるだろう。



 夜の11時。取引の時間だ。ミハイラは改めて店内の様子を伺う。

 裏口から数人の男が入ってきた。そのままオーナーらしき男とその部下がVIPルームに移動していく。


「VIPルームに入ったわ。人間が5人、ヴァンパが3匹ね」


 ミハイラもこの仕事は長い。遠目からでもヴァンパイアと人間の見分けはつく。


「1分後に令状を持って踏み込む。同時にヴァンパイアだけは排除しておいてくれ」

「はぁい、了解」


 トイレに立つ振りをしてVIPルームに近づくと左手にメリケンサック、右手に大きめのナイフを装備して腕時計をちらりと見た。


「ヴァルちゃんの方は大丈夫かしら」

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