12月のダイアリー 6

11月16日(土) 曇り


昨日、小説講座に行けずに、地下街をぶらついていて、夏休みにバイトをしていたファーストフードのお店でヒマを潰していたら、たまたまシフトに入っていた太田君が、『今度休みの合うときに、ドライブに行かない?』って誘ってきた。

彼はいっしょにバイトしていたときにも、誘ってくれたことがあった。

そのときは断ったけど、悪い人じゃないし、無邪気で明るくて話もあう人だったから、『新しい彼氏ができれば、川島君のことも忘れられるよ』っていうはるみの言葉を思い出し、遊びに行ってみることにした。


たまたまお互い今日が空いていたので、さっそくデート。

川島君以外の男の人と、こうやってふたりっきりで会うのなんてはじめてのことなので、ちょっとドキドキ。

海沿いの国道をクルマで走り、途中のカフェでコーヒータイム。

太田君の話は面白い。

話題もわりと豊富だし、ジョークもはさんで笑わせてくれる。

だけど、表面的な世間話ばっかりで、その言葉は心の奥まで響いてこない。


太田君はコーヒーカップを持つとき、取っ手に指を入れずに、指を揃えて持つ。

そんな仕草が、川島君といっしょ。

クルマをバックさせるとき、助手席のヘッドレストに手をかける。

その仕草も、川島君と同じ。

そうやって、彼のちょっとした仕草や口癖を、つい、川島君と重ねてしまう。

なにをしているときでも、太田君のうしろに川島君の影がチラチラとかすめてしまって、彼といっしょにいることを、純粋に楽しめない。


そういうのってなんだかいたたまれないし、相手にも悪い。

そう思って、途中で『もう帰ろう』と言い出したら、太田君はいきなり不機嫌になって黙り込み、クルマの運転もちょっと荒っぽくなった。

帰り道の途中、暗くなった海辺の公園でクルマを止められたときは、怖かった。

幸い、なにもされなかったけど、彼とはもう、ふたりだけでは会いたくない。

やっぱり川島君がいい。

川島君でなきゃ、ダメ。


川島君みたいに、『根っこが同じ』って感じられて、その人の言葉にいちいち共感できるのって、なかなかないことなのかもしれない。

そういう風に思えた彼を、あっさりと手放してしまったわたしは、ほんとうにおバカさん。

川島君がとなりにいることが当たり前過ぎてて、かけがえのないものだったってのは、なくしてからじゃないとわからなかった。


太田君と別れて家に帰って、夜が更けてくると、どんどん孤独感が増していき、ポッカリと空いた真っ暗な闇の底に、落ちていくような錯覚に襲われる。


虚しい。

虚しい。


どうしたらこの虚しさ悲しさを、振り払うことができるの?

川島君やみっこがいない淋しさを、忘れることができるの?


いてもたってもいられない気持ち。







11月17日(日) 曇り


部屋の大掃除をはじめた。

なんにもしないでいると、時間が止まったようで辛いから。


つづく

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