12月のダイアリー 5

11月14日(木) 晴れ


この一週間、わたしは機械的に過ごしている。

学校に行くのも、食事をするのも、睡眠も、とっても規則的。


なんだか不思議。

川島君と別れて、みっこと別れて、まだ10日くらいしか経っていないのに、もう、心の傷は癒えたのかもしれない。

あれだけ、『もう耐えられない』って思っていた悲しみも苦しみも、過ぎ去ってしまえば、もうなにも感じない。

案外わたしって、逞しいのかも(笑)。






11月15日(金) 晴れ


『もうなにも感じない』って…

そんなの嘘。

自分の日記に嘘を書かなくても…

そんな強がりを書かなくても…


どうかしてる。



日が経つにつれて、川島君やみっこともう会えない苦しみ、虚しさが、どんどん増してくる。

今になって、すごく後悔している。

わたし、なんてバカなこと、しちゃったんだろう。

たとえ未遂に終わったとしても、レイプなんて、女の子にしてみれば、魂の殺人だ。

みっこにとって、そんな絶望的にショックな事件があった直後、身も心もだれかに頼りたくなるのは、当たり前のこと。

ましてや、ずっと好きだった川島君が助けてにきてくれたのだから、みっこはほんとに嬉しかったに違いない。


今、冷静になって考えてみると、みっこは例え川島君を好きになっても、わたしとの友情を第一に考えてくれていた気がする。

彼女はそれまで、完璧と言っていいくらい、川島君に対する想いを抑え込んでいた。

三人で由布院にバカンスに行ったときだって、みっこはわたしと川島君の邪魔にならないよう、気を遣っていたし、東京や長崎で、川島君と何度もふたりっきりで会っていても、彼に自分の気持ちをまったく気づかせなかったみたいだった。

わたしが川島君とケンカしているときでさえも、さりげなく仲をとりもってくれたくらいだ。

そうやって想いを抑えながらも、やっぱり溢れてくる気持ちはどうしようもなかったみたいで、時々わたしに、自分の恋心の断片を、気づかれないように打ち明けて、気を紛らしていたんだと思う。


『好きになっちゃいけない人』を好きになり、友情と恋愛の板挟みで、みっこはとっても苦しんでいたのかもしれない。

そんなみっこが、あれほどの事件でうっかり見せた失態を、わたしには責めることなんてできなかった。


わたしに対する彼女の友情は、本物だった。


『嘘で塗り固めた友情』なんて、わたしはののしってしまったけど、その嘘は、わたしとの友情を守るための、彼女のギリギリの選択だったんだと思う。



あの、夜の公園で。

『藤村さんのことが好き』って、みっこがわたしに嘘をついた夜…


わたしがあげたケーキを食べながら、みっこは大粒の涙をポロポロとこぼして、

『あなたのこと、一生忘れない。一生親友でいたいから』

って、うわごとのようにつぶやいていた。


それはきっと、

『親友の恋人を好きになってしまった』

『親友のわたしに嘘をついてしまった』

という、二重の罪悪感で、心が押し潰されそうになっていて、そんな重荷に必死で立ち向かおうとしていたからこそ、出た言葉なんだと思う。

すべての真実が明らかになった今、あのときの森田美湖の言葉と涙の意味は、そうとしか思えない。



今日は小説講座の日。

わたしは勇気を出して九州文化センターに行ってみた。

川島君に会ったら、みっこのようにニッコリ微笑みかけて、

『こないだはごめんね。もう、恋人同士に戻れなくてもいいから、今までみたいに、創作で繋がっていられないかな』

って、明るく言うつもりだった。

1階のロビーに入りかけたところで、遠くに川島君の後ろ姿を見つけた。

その瞬間、からだが凍りつき、足に根が生えたように動かなくなり、そのまま立ちすくんで、わたしは一歩も先に進めなかった。


無意識のうちに、彼に見つからないよう、じりじりと下がっていき、気がつけばわたしは、地下街を彷徨さまよっていた。

もう、川島君の顔をまともに見ることは、できない。

小説家になりたかった。

でも、小説講座には、もう行けない。

わたしの夢も、諦めるしかないのかな。


つづく

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