12月のダイアリー 7
11月18日(月) 雨
今日は、朝から雨が降っている。
なんだか外に出るのがおっくうで、学校を休んで、ずっと部屋の片づけをしていた。
去年のわたしの誕生日に、みっこからもらったワンピース。
クリスマスのとき、プレゼント交換でもらったマフラー。
川島君からクリスマスにもらった、イニシャル入りのネックレスに、バレンタインのお返しでもらった、ハートのイヤリング。
『これいいよ』って言って、川島君が貸してくれたままの本とかCDとか、いっしょに作った同人誌とか、文化祭の準備のときに、みっこといっしょに撮った写真とか、ふたりを思い出すいろんなものが、次から次に出てくる。
見ているだけで、いろんな思い出がよぎっていく。
楽しかった思い出。
素敵な思い出。
みんな、過去のできごと。
そして、今年のわたしの誕生日。
ふたりからもらった、ミッキーマウスの腕時計と、万年筆…
裏切りの証し。
このプレゼントをもらったことで、わたしはふたりの仲を疑うようになり、その疑惑はまるで坂を転がり落ちる雪だるまのように、どんどん膨らんでいき、わたしを押し潰していった。
このプレゼントをもらわなければ、わたしたちの関係はまだ、続いていたかもしれない。
このプレゼントをいっしょに買うようなことを、ふたりがしなければ、みんな平和でいれたかもしれない。
だけどもう、なにもかも、過去のできごと。
それらをみんな、ひとつの箱にまとめて、わたしは押し入れの奥にしまった。
だけど、そんなことをしたって、わたしの気持ちはちっとも晴れない。
今日の、しのつくような雨と同じ。
思い出の品を隠すのと同じで、わたしはいつも、現実から目をそらし、見ないようにして、逃げてきた。
その溜まりに溜まったツケが、11月5日のできごとだったというのに、わたしは今も、現実をまっすぐ見つめることができない。
みっこが藍沢氏と別れたときも、こんな気持ちだったのかな?
彼女は家から逃げ、恋人から逃げ、仕事からも逃げて、この福岡にやってきた。
だけどみっこは、『現実からずっと逃げ続けてきたあたしのツケを、払わなきゃいけない』って言って受け入れ、一歩成長できた。
今になって、彼女が言ったことをいろいろ思い出す。
『あたしは失敗して、いろんなものを無くしちゃったけど、だからこそ、本当に大切なものがなにか、よくわかった』
って、彼女は言った。
今なら痛いくらい、その言葉の意味がわかる。
よく、『失恋は人を成長させる』なんて、気楽に言う人がいるけど、それは違う。
その成長のためには、辛いことを乗り越えていかないといけない。
だれもがみな、失恋で『成長』できるわけじゃない。
乗り越えられないこともある。
堕落して自暴自棄になって、命を絶つ人だっている。
みっこは成長できた。
強かった。
わたしはどう?
失恋の壁は、高くて険しく、乗り越えられる気がしない。
11月20日(水) 曇り
水曜日はみっちり、一日授業。
今日の授業はみっこと同じ教科もあるから、彼女と教室で顔を合わせたときに、どんな反応をすればいいか悩んでいたけど、そんな心配はなかった。
あの日からずっと、みっこは学校を休んでいる。
だれもみっこを見ていないし、家に電話しても出ないという話だった。
いったい彼女、どうしたんだろう?
あれから怪我が悪化したりとか、事件のショックで心を病んだりしてるんじゃないかとか、悪いことばかり考えてしまう。
もし、そうやって彼女が学校に来れないほど、苦痛を感じているなら、それはわたしのせい。
わたしがひどいことを言って、傷ついていたみっこに追い打ちをかけたせいだ。
『みっこみたいにワガママで嘘つきで、親友の彼氏でも狙うような女。友だちなんかできないわよ』
だなんて…
友だちとして、人として、絶対口にしちゃいけない言葉だろう。
いくら、川島君と別れたばかりで、混乱していたとはいえ、そんなひどい言葉を、弱っているみっこに投げつけるなんて、わたしって最低。
みっこのことが気になる。
でもわたしには、電話をする勇気もない。
みっこから冷たい言葉を聞くのが、怖い。
わたしのことを拒否されるのが、怖い。
わたしはみっことの友情を、完全に壊すようなことを言った。
今さらどんな顔して、みっこに会えるっていうんだろう。
彼女からは、もう電話もない。
きっと彼女はもう、わたしを許してはくれない。
つづく
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