Rip Stick 17
「みっこ、大丈夫かな? もう少し側にいてやった方が、よかったかもしれないな。顔にアザができてたけど、仕事には差し支えないかな?」
まだ人通りのほとんどない、蒼く
「川島君、どうやってみっこを見つけたの?」
「アリーナの裏は森だっただろ。もし男たちがみっこを
みっこを見つけたときは、ふたりの男ともみ合っているところで、押し倒されて服を破かれながらも、必死で抵抗していたんだ」
「…どうやってふたりもの男を、撃退したの?」
「そこらへんの棒切れを振りかざして、『やめろっ!』って叫んで、後ろからぶん殴ったんだよ。不意をつかれたみたいで、ふたりともびっくりして、あわてて逃げていったよ。まあ、ぼくも必死だったから」
「勇気あるのね」
「そりゃ、みっこがあんな目にあってるのを見れば、だれでもそうするだろ」
「…そう。ね」
「それから、みっこの名誉のために言っておくけど、彼女はほんとにレイプまではされてなかったんだよ。もう少し遅かったら危なかったけど、間に合ってよかった」
「…ふ~ん」
なにが『みっこの名誉のため』よ。
『みっこは池に落ちた』って、川島君はみんなを誤魔化そうとしたけど、『レイプされてない』ってのも、嘘かもしれない。
わたしにまで、嘘をついて…
どうしてそんなに、みっこをかばうの?
そんなにみっこが大事なの?
そりゃ、襲われているのを助けたのは、立派で、素晴らしいことだとは思う。
みっこも本当に気の毒で、なにかできることがあるのなら、わたしも力になってあげたいと思う。
だけど、昨夜からの川島君を見ていると、みっこを守ることばかりに懸命で、わたしのことなんて、これっぽっちも気に留めてくれていない。
ふたりキスして、そのあとだって、みっこにべったりくっついていて。
そんな光景を見せられて、わたしだって大きなショックを受けているというのに…
なんだか、不愉快。
「藤村さんとも話したんだけど、いちばんマズいのは、スキャンダルになることだと思うんだよ。こういう話って、たとえ未遂に終わったことでも、噂に尾ひれがついて、ひどい話になっていくからな」
「…」
「みっこのこれからのためにも、それは防がなきゃいけない」
「…」
「幸い、みっこも軽い怪我だけですんだし、このことを知っているのは、ぼくたちと藤村さんと星川先生だけだ。それなら、だれにも知られないですむはずだよ」
「…」
「さつきちゃんも、絶対人に言うんじゃないよ」
「…」
「いいかい?」
「…」
「さつきちゃん。どうしたんだ?」
川島君の話になにも応えず、助手席で黙んまりをきめているわたしを、ようやくおかしいと気づいたのか、川島君は
「さつきちゃん。どうして黙ってるんだ?」
「…」
「さつきちゃん?」
「…」
「なんとか言いなよ」
「…」
「さつきちゃん!」
「川島君… みっこにはやさしいのね」
「え? そりゃ、さつきちゃんの親友だし、こういうときはだれだって、そうするだろ」
皮肉っぽい口調で言ったのに、川島君は全然それに気づいていない。
わたしはますますイライラしてきた。
「嘘!」
「え? どうして?」
「…」
その問いには答えず、口をとがらせて、わたしは昨夜のことを振り返る。
確かにみっこのことは、なんとかして助けてあげたいとは思うけど、ふつう、男の人がただの友だちの女の子に、あそこまでする?
みっこの身づくろいをしてあげたり、破れたストッキングを脱がせてあげたり、キスをしたり…
そして…
「川島君。みっこのマンションも、部屋も… 知ってるのね」
「あ…」
川島祐二は、言葉に詰まった。
そんな彼の様子に、わたしはいっぺんにカッとなって、口調を荒げながら言った。
「わたし、みっこのマンションを川島君に教えたことなんてないし、九重に行った帰りも、みっこを途中で降ろしたわ。
家まで送るのは、川島君の主義でしょ。
だから長崎にみっこと行った帰りにでも、彼女のこと、送ってあげたのね?
部屋にも… みっこの部屋にも、寄ったことあるのね?」
「…」
川島祐二は言い訳もせず、黙っている。
その沈黙にわたしは狂いそうなくらい、胸が掻きむしられた。
信じられない。
ひとり暮らしの女の子の部屋に、行くなんて。
自分の恋人の親友の部屋に、のこのこ上がり込むなんて!
みっことあの部屋で、ふたりっきりで、いったいなにをしてたっていうの?
ものすごいスピードで、わたしの頭の中にいろんな妄想が暴走していく。
昨日見た、川島君とみっこのキスシーンや、モルディブでの夜に見た、藤村さんとのラブシーンが、それに重なる。
みっこのあの美しい肢体が、川島君に絡みつき、
なんだかもう、自分の気持ちを支えるものを全部なくしちゃった気がして、わたしはいっぺんに感情が爆発してしまった。
「どっちから誘ったのよっ!」
つづく
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