第5話 異変

ラボからの連絡があった今朝は緊迫した状況かと思いきや、いつも通りだったことに驚いた。

警戒して何重にもガードをつけて登校した。まだ、気は抜けないと気をつけて生活していた。


あれから1週間がたったが、ラボが襲われるだけで、こちらには何の被害もなかった。


が、1度だけ、茉莉が能力を使ってしまって1日寝込んでいた。

何故使ったのか聞いたが、何も答えてはくれなかった。


今日も茉莉と学校に登校したが、最近余所余所しいように感じていた。学校に着いても、変わらない。不思議に思うが、茉莉には茉莉の考えがあり、ここ最近の警戒体制に不満があるのかもしれないと思った。


「じゃ、涼。また。放課後ね」

「おう」

茉莉と別れた俺は教室に歩き出す。

50メートル程進み、教室に入るとけんたろが、

「なあ、最近お前ら可笑しくないか?」

と、言ってきた。

やはり周りが気づき始めるほど、可笑しくなっているのか…、と考えたが、けんたろだから気づいたということで思考を打ち切った。

「涼、茉莉にちゃんと伝えてるか?」

「何?突然」

「いや、お前ら特殊な関係だろ?茉莉が気負ってなきゃ良いけどさ。茉莉、何かと考えるタイプじゃん?」

「お前に言われなくも分かってるよ」

「んじゃ、ちゃんと……」

プルルルルー。

けんたろを言葉を遮りシフォがなる。

俺は腕時計からシフォを取り外す。そして、側面に付いているボタンを押し、通話状態にした。

けんたろは即座にシールドをかけてくれたらしい。

『…う!涼、今すぐ来てくれ。また、ラボが襲われた。今、人手がいないんだ!』

「…わかりました」

『ああ、頼む』

「こいってか?」

「ああ。行ってくる。茉莉を頼む」

「おう。任せとけ」

けんたろのその言葉を聞くと同時に俺はラボへの道を走り出す。

ラボは学校から早くて15分、遅くて25分かかる。

俺は早く着くために近くの貸し出しバイクに飛び乗り1000円札を投入し、エンジンをかけた。

バイクはすぐに発車し、みるみる景色が後ろに遠ざかっていく。ストックした能力、ウィンドを使い、頭に風のヘルメットを作り、被っていた。

10分程でラボについた。

ラボは東京ドーム14個分の広さを有し、その中でも博士のラボが一番大きく、2階建てだ。ラボに通じる道には倒れた黒ずくめの男が大半と同じく黒ずくめの女が少し倒れており、その中には研究員の人もちらほら見受けられた。

重症な怪我人にヒアリングを施しながら進むと、戦闘区域に入る。

周りにはこれでもかというほど人が倒れており、俺は言葉を失った。

後ろから気配がしたので右に避け、壁から離れると、黒ずくめの男がこちらに鉄パイプを振り回したように見えた。

何度かこちらに鉄パイプを振り下ろしてくるので、避けていたら、それは鉄パイプではなく、能力を使って作った、激熱パイプだと気づく。

俺はレインを使い、そのパイプを掴み、水の玉(半径1メートルほどの)に男もろとも放り込んだ。男が大量に水を吸い込み、気を失ったのを確認し、俺は水の玉を壊した。


博士を探すため、走り出したが、どこにいるかがわからない。

そこで、研究所のセキュリティモニターの所へ行くことにする。セキュリティモニター室は2階の一番奥にある。その部屋には大事な研究材料なども詰まっている。狙われてしまったら大きな損害を生む。

走っていると、ここには人が1人もいないことに気づいた。

(誘い込まれている?)

セキュリティモニター室が目の前まで迫ったとき、中から声が聞こえた。

(博士?)

博士はセキュリティモニター室にいた。ドアの、上らへんにある幅20センチメートル程の小窓から中を覗いてみた。

中には黒ずくめの男が5人、女が2人と博士と藻楼もろう君がいた。

藻楼君こと藻楼 周承もろうかねつぐは博士が拾ってきた人材である。そのためか、博士は藻楼君がお気に入りであり、目を掛けていた。

博士は、藻楼君を人質に取られているためか、大人しくしている。

一方、藻楼君は派手に殴られたのか、顔中に打撲傷があり、首にサバイバルナイフが当てられているが、気絶しているようで動かない。

さて、どうしたものかと考えあぐねていたが、ウィンドを使うことにした。

セキュリティモニター室には隙間がない。仕方がないので、俺は鍵穴からウィンドを使う。鍵穴に手をかざし、室内の風に働きかける。風達は俺の力に従い、黒ずくめの男と女を縛り出す。1人目は、風に足を払われ、倒れたところを。2人目は、それに驚き、周囲を見回していたところを後ろから。3人目と4人目は、銃を発砲しようとしたところ弾を詰まらせ、自爆。残り3人は恐れおののき、地べたにひれ伏したところを。

こうして、犯人を捕らえると、俺は中に入った。

急いで博士の元に駆け寄る。

「大丈夫ですか、博士」

博士はうっすらと笑い、

「大丈夫だ」

と言った。

「ところで、周承を頼む」

博士は藻楼君に目を向けながら、俺に頼む。

俺は立ち上がり、藻楼君のところへ向かい、素早く治癒を施した。


こうして事件は解決したのである。

後に、犯人に事情を聞けば、博士に恨みを持つ連中だったと判明。

茉莉は、この事件には関係がなかったように見えたが、犯人グループの長(俺が初めに風で縛ったやつ)は、博士の資料を盗み、強い能力持ちを知る計画もあったという。今回は間一髪と言えた。




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